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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第2回「国の借金というプロパガンダ」

 日本のデフレ脱却を妨げている「最悪の情報の歪み」は、いわゆる「国の借金」問題だ。財務省がマスコミに叫ばせている「日本は国の借金で大変だ。だから増税」というキャンペーンは、根っ子の芯から完璧なまでのプロパガンダ(政治的意図を持つ宣伝活動)である。そもそも「国の借金」という用語自体が「誤用」なのである。

 国の借金とは、何だろうか。普通の日本人が「国の借金」という言葉を聞くと、「ああ、日本国が外国から借りている借金のことね」と思うだろう。そう思わせるためにこそ「国の借金」という言葉が使われているわけだから、当然だ。「国の借金が莫大」というフレーズを聞いたとき、日本国民の多くは「自分を含めた国民の借金が多いという話か! 大変だ!」と認識してしまい、増税に対して「仕方がない」という諦観を持つようになる。まさに、それが財務省の手だ。
 筆者は「用語」「フレーズ」の定義を極めて重要視する。筆者が使う用語で、明確な定義(しかも数値データベースの定義)がされていないものはない。とはいえ、普通の人はこの種の発想(必ず定義する)をしないため、財務省式「用語を故意に誤用する」タイプのプロパガンダに、一発で引っかかってしまうのである。

 財務省が「国の借金」と呼んでいる概念は、正しくは「政府の負債」である。「国」でも「国民」でもなく、日本政府の借金のことなのだ。これは別に、筆者のオリジナル定義というわけではなく、グローバルに「政府の負債」なのだ。英語で書くとGovernment Debtになる。
 ちなみに、日本銀行の資金循環統計上は、グローバルな定義通り「政府の負債」として統計されている。すなわち、同じGovernment Debtについて、日本銀行は「政府の負債」と正しい用語を用い、財務省は「国の借金」と呼んでいるわけだ。
 この時点で、財務省が「用語の誤用」により、何らかの印象操作を試みていることが明々白々となる。

 筆者がある番組において、アシスタントの女の子に「日本は国の借金が莫大と言われているけど、誰から借りているか知っている?」と訊ねたことがある。彼女は少し考えた末に、「外国?」と答えたのだ。財務省の「用語の誤用」プロパガンダが、見事なまでに望まれた効果を上げていることがわかる。
 国の借金ならぬ「政府の負債」の詳細については、次回以降に解説していくが、まずは正真正銘の「日本国家の借金」について書いておきたい。

 実は、財務省式の「インチキ国の借金」の話は脇に置いておいても、日本国は国家として外国から莫大な借金をしている。すなわち、対外負債がそれなりの規模で存在しているのだ。その額は、驚くなかれ372.1兆円である(日銀資金循環統計'12年6月末速報値より。以下同)。
 確かに、財務省の言う「日本の国の借金は1000兆円!」はウソなのだが、それにしても現実に400兆円近い「国の借金」が存在しているわけだ。

 ところが、我が国は何も外国からお金を借りているばかりではない。無論、外国に「貸し付けているお金」というのも存在するのである。対外資産もそれなりに持っているのだ。
 いや、それなりに、ではない。何しろ、日本国の対外資産は630兆円というとてつもない金額に達している。
 日本は世界に630兆円のお金を貸し付けている(日本の対外資産が630兆円)。それに対し、世界は日本に371兆円貸している(日本の対外負債が371兆円)。
 すなわち、現在の日本は世界に対し259兆円(=630兆円-371兆円)の対外純資産状態にあるわけだ。
 そして、日本の対外純資産額259兆円というのは、実は世界最大だ。

 普通に考えて、お金持ちの定義は「金融資産が多いこと」ではない。たとえば、ある人物が100億円の金融資産(銀行預金など)を持っていると聞くと、「お金持ち!」と思うかも知れない。だが、実は彼には120億円の負債(借金)もあると聞くと、「え? 大丈夫?」と、判断を翻すことになるだろう。何しろ、この人物は実際には20億円の債務超過状態なのだ。
 それに対し、「金融資産が100億円。負債はゼロ」という人がいたとすると、これは間違いなくお金持ちと評価していいだろう。何しろ、100億円について「返済等は一切考えず、好きに使える」のである。
 というわけで、お金持ちの定義は「金融資産が多いこと」ではなく、「純資産が多いこと」になるのだ。そして、日本の対外純資産の額は259兆円に達し、世界最大だ。

 実は、日本は「国家」としてみれば借金大国どころか、世界最大のお金持ち国家なのである。これは統計的に証明された事実であり、たとえ財務省といえども否定することはできない(ちなみに、世界で最も対外純「負債」が多い国、すなわち貧乏国はアメリカである)。
 日本の対外純資産が世界最大なのは、我が国が延々と経常収支の黒字を積み重ねてきたためだ。実は、対外純資産は経常収支の黒字の積み重なりで増えていくのだが、この手のマクロ経済の知識を持たず、さらに新聞やテレビで財務省発「日本は国の借金が莫大で破綻する!」という論説にのみ触れている国民は、「じゃあ、増税も仕方がないね」と、自分たちの生活を破壊し、所得を押し下げることが確実な消費増税にさえ賛成してしまう。現実の日本国は「世界一のお金持ち国家」であるにも関わらず、だ。
 情報の歪みとは、かくも恐ろしいものなのである。

三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。

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