「R-27はもともとSLBMで、北朝鮮はこれを陸上発射型の『ムスダン』として開発しているので、元に戻すのは比較的容易だったでしょう。『27』は1968年に配備された液体燃料型でしたが、固体燃料にしたため射程は短くなったと推定される一方、一部には2800キロに達するとの見方もあります。こうなると韓国全域が攻撃圏内、日本も射程内です。対応する海自は、現在、イージス艦搭載のSM-3ブロックIAで迎えるしかありませんが、これは高度500キロまでしか迎撃できません」(軍事アナリスト)
北極星1号の弾頭搭載重量は650キロと推定されている。気になる北の核開発は、今どうなっているのか。
「8月22日、IAEA(国際原子力機関)は、北朝鮮が今年に入ってプルトニウムの生産に向けた活動を再開させたようだと指摘しています。北朝鮮の潜水艦保有数は78隻で、72隻の米国よりも多く世界一(日本は16隻)。ただし、中核艦であるロメオ級のエンジンはディーゼルで“水中耕運機”と小バカにされるほど旧式。1日1回は水面に浮上し、バッテリーを充電しなければなりません。そのため対潜哨戒機で補足可能で撃沈できます。海中でもエンジン音が大きく捕捉は容易です。今回の潜水艦は2000トン級新型潜水艦。SLBM搭載能力は1発と限定されていることから、ロシアから購入した退役ゴルフ級潜水艦(3000トン級)をベースに改良を加えているのでしょう。本来ならゴルフ級のSLBM搭載能力は3発。潜航能力は70日で、太平洋に出航すればハワイやグアムなど、米国の戦略要衝地を射程圏内に捉えることができます」(国際ジャーナリスト)
耕運機とはいえ、弾道弾搭載潜水艦(SSB)は発射前の探知が難しい。効果的なのは味方の潜水艦が北朝鮮の潜水艦基地近くで待ち伏せし、有事の際に撃沈することだ。
「昨年から米国原潜は、潜水艦基地付近での監視・追跡作戦を展開しています。海自に北朝鮮潜水艦の撃沈を要請する可能性もあります」(同)
周辺国に領海や領空侵犯を繰り返されても、口先抗議だけのわが“ニッポン”にそれだけの覚悟があるかどうか−−。過去には、さらなる脅威を軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス』('05年4月8日号)に報じられた。'93年に巡航ミサイル搭載の攻撃型原潜をロシアから購入した可能性があるということ。さらには、待ち伏せできない未知の潜水艦基地の存在だ。
「米国の駐上海領事館が'08年9月に作成した公文書によれば、中国は北朝鮮の秘密海底核施設についての極秘情報を入手しているとのことです。情報が事実なら、北は原潜の建造を目指しているのかもしれません。となれば、攻撃型原潜建造も不可能ではありません。金正恩は、『核能力を保有した軍事大国の戦列に入った。米本土と太平洋作戦地帯は今、われわれの手中にある』と、今回の発射成功を祝って豪語しましたが、あながちハッタリとは言えません」(前出・アナリスト)
このように、大ハシャギする金正恩国務委員長の姿が報道などで映し出されるが、それとは裏腹に足元はグラついている。労働党第1書記に就任して以降、海外で勤務する北朝鮮大使館員や駐在員らによる韓国への亡命件数が、'13年には8人だったのが'14年は18人となり、昨年も20人以上が国外に脱出しているのだ。
「秘密警察組織である国家安全保衛部の幹部やスパイテロ組織である偵察総局出身の大佐、正恩の資金を管理する党中央委員会の幹部まで亡命しています。昨年7月には、'00年に韓国の済州島で行われた南北国防相会談に北朝鮮次席代表として参加した朴勝元上将が、モスクワにある第三国の大使館に駆け込み韓国に亡命を申請したと報じられました」(日本在韓国紙特派員)
大トリは昨年、正恩の実兄・金正哲がエリック・クラプトンのロンドン公演を観賞していたとき、横で付き添っていた英国駐在公使のテ・ヨンホが亡命を求めたこと。これまで亡命した北朝鮮外交官としては「最高位級」に当たる。先の朴上将やテ公使は、北権力中枢の“パルチザン血統”やエリートグループに属する人物だ。
「テ公使の脱北が、現北朝鮮体制の脆弱性を表しているのは間違いありません。公使は英国勤務10年というベテランで、北朝鮮の体制宣伝の先頭に立っていましたが、英ガーディアン紙によると、一昨年頃、友人に『北朝鮮の海外高官は無一文状態で、違法行為をしてでも現金を調達するよう圧力を受けている』と暴露したことがあり、資金的に困窮していたらしい。切迫した経済状況から金を持ち逃げしたとの説もある。金融制裁で銀行口座を使用できず現金を持ち歩くことから、こうした内部犯行が頻繁に起きているのです」(同)
テ公使の月給は15万円だったというから、「好物はカレー」という巷談も、その程度しか口にできなかったという裏返しなのかもしれない。自由な空気に接すれば接するほど、北の外交官たちは正恩委員長の“狂気”に絶望するのだろう。