すると目の前の曇りガラスを白い人影が滑るように通り過ぎて行くのが見えた。
少年の家は人里離れた田舎にあり、夜ともなれば人通りもぱったりとなくなる。
窓の外は田んぼしかなくこんな夜遅い時間に人が通るとは考えられなかった。
奇妙に思ったがとりあえず勉強をやめて寝る事にした。
布団に入って目を瞑っていると、静寂の中ザワザワザワという音がどこからともなく聞こえてきた。
それと同時にキーンという激しい耳鳴りがした。
〈誰かいる!〉
部屋の中に何者かの濃厚な気配がした。
恐ろしさのあまり布団に手をかけて頭から被ろうとした瞬間。
ざらっとした物が指に触れた。それは包帯を巻いた人間の手の感触。
目の前には、顔じゅう包帯でぐるぐる巻きにしたミイラのような顔があった。
〈ぐ、ぐふぅ…〉
ミイラは口を開けて呻いた。そして生暖かい息を吹きかけてきた。まるで肉が腐ったような酷い臭い。
その息の強烈な臭さに頭がくらくらして気が遠くなった。
次に気がつくと辺りはすっかり明るくなり朝になっていた。当然の事ながらミイラの姿も消えていた。
その奇妙な出来事の直後。少年は事故に遭い手足に包帯を巻く怪我をしたという。
( 怪談作家 呪淋陀(じゅりんだ) 山口敏太郎事務所 )
参照 山口敏太郎公式ブログ「妖怪王」
http://blog.goo.ne.jp/youkaiou