ところが6月下旬以降、青木は次々に災難に見舞われ状況が一変。現在は大リーガー生命を維持できるかどうかという瀬戸際に立たされている。
最初の災難は6月20日のドジャース戦で右足のくるぶしに死球を受けたことだ。これにより足の腓骨にひびが入り、故障者リストに入った。
この時は復帰まで5週間かかり、シーズン中に550打数をクリアすることが不可能になった。しかし、復帰後も打率3割を維持していたことから評価は高いままで、ジ軍がシーズン終了後に「2016年は年俸550万ドルで契約する」というオプションを行使すると見る向きが多かった。
ところが復帰から約2週間後の8月9日、青木はまたしても死球禍に見舞われる。今度は頭だった。カブス戦で相手のエース、アリエタが投じた時速148キロのカットファストボールがヘルメットの右側頭部を直撃したのだ。
大リーグではここ数年、脳振とうの後遺症に苦しむ選手が多くなっているため、頭に死球を受けた選手は専門医による「脳振とうテスト」を受けなくてはいけない。青木には軽度のふらつきやめまいが見られたが、脳波測定や各種検査の結果は正常の範囲内だったため、1試合休んだだけでゲームに復帰した。
この時点では、青木の脳振とうはそれほど重傷ではなかったので、再度、脳がダメージを受けることがないよう気を付けていれば自然に治っていたはずだ。
一度脳振とうを起こした人にとって、いちばん怖いのは、数日中に再度、脳に強い衝撃を受けてしまうことだ。めまいやふらつきが残っている状態で、脳に再度の衝撃を受けると意識障害、記憶障害をはじめ様々な体の不調(セカンドインパクト症候群)に悩まされることになる。
青木の場合、頭に死球を受けた3日後の8月12日の試合で、守備でフェンス際の飛球を背走して捕球した際、フェンスに激突。脳に衝撃を受けた。それによってめまいがひどくなったため、青木はそのまま故障者リストに入った。
だが、チームがプレーオフ圏から振り落とされそうになっていたため、青木は1週間休んだだけで8月20日に復帰。しかし、本来なら安静にしているべき時にプレーを再開したため、また青木は様々な体の不調に悩まされるようになり、9月5日の朝、胸が苦しくなったことを機に、ボウチー監督に「目を動かしていると頭が重くなってくる」「感情のコントロールができない」「いつも30分やる自転車こぎのトレーニングを15分もできない」といったことを伝え、再度戦列を離れた。
シーズン終了まで1カ月を切った時点でのDL入りなので、青木はこのままシーズンを終えることになるだろうが、問題はその後である。
脳振とうの後遺症、特にセカンドインパクト症候群の場合は2、3カ月で治癒しないケースが多く、表にあるように首位打者争いの常連だった打者が2、3年は使い物にならなくなることもある。そのため、どの球団も脳振とうの後遺症が見られる選手とは契約をしたがらない。
しかも青木は来年1月には34歳になるので、年齢的なハンデもある。メジャーの球団は将来性がある20代の選手を厚遇する反面、30代中ごろになった選手は冷遇され、好成績を出していても複数年契約が取れなくなる。米国に行ってから3年間連続で好成績を出していた青木が、今季1年契約しか取れなかったのも年齢的な要因が大きい。
それを考えると青木のメジャーリーガーとしての生命は今、大きな危機に瀕していると言わざるを得ない。
来季、青木はどうなるのだろう?
可能性が高いのは、どの球団からもメジャー契約のオファーを受けられず、外野手の手薄な球団とマイナー契約して、メジャー復帰を目指すパターンだ。来年春までに脳振とうの後遺症が消えていれば、オープン戦で好成績を出して開幕からメジャーのベンチ入りすることも可能だろう。
もう一つ考えられるのは、ジャイアンツが年俸を200万ドル程度に下げて青木とメジャー契約するケースだ。ジャイアンツはチーム内にトップバッター向きの人材がいないので、青木をキープしておく可能性は大いにある。
ベストのシナリオは脳振とうの後遺症が10月中に治癒し、それを確認したジャイアンツが、「2016年は550万ドルで契約する」というオプションを行使するケース。だが、病気が病気だけに、可能性はそう高くないような気がする。
スポーツジャーナリスト・友成那智
ともなり・なち 今はなきPLAYBOY日本版のスポーツ担当として、日本で活躍する元大リーガーらと交流。アメリカ野球に造詣が深く、現在は各媒体に大リーグ関連の記事を寄稿。'04年から毎年執筆している「完全メジャーリーグ選手名鑑」(廣済堂出版)は日本人大リーガーにも愛読者が多い。