実は、東海大相模(神奈川)と聖光学院(福島)の一戦は、ネット裏をざわつかせていた。阪神・中村勝広GM、佐野仙好統括スカウト、畑山俊二スカウトらの一行が陣取っていたのだ。
お目当ては、3年生になって急成長した好左腕・小笠原慎之介(東海大相模)。坂井信也オーナーも一行に加わっており、虎トップ直々の視察は4年前の藤浪晋太郎の1位指名を思い出させる。しかし、今年の阪神は一枚岩ではないという。
「年始の同校練習始めにも阪神スカウトは顔を出しており、誠意は伝わっています。坂井オーナーは本社始業前の僅かな時間を縫っての視察。小笠原は救援登板だったため、実際に見ることはできませんでしたが…」(球界関係者)
前述通り、地方大会で散ったが、右投手のナンバー1は高橋純平(県岐阜商)、左はこの小笠原だ。スポーツライター・豊島純彦氏が、小笠原をこう評する。
「2回戦の投球内容は良くなかった。9回一死からの登板だったので力勝負に出たせいかもしれませんが、県大会とは対照的にボールが高かった。でも、彼に対するスカウトの高評価は変わらないでしょう」
ところが、阪神スカウトは小笠原一本に絞りきれない。東海大相模は、ライバルの巨人・原辰徳監督の母校でもあるからだ。
「巨人が本気になれば、菅野智之(巨人)をドラフト浪人させた“ウルトラC”もやりかねない。阪神は2年続けて左の先発タイプを1位指名したので、中村GMは右投手か、左打ちの内野手を狙っていました。東海大相模には吉田凌というドラフト候補の好右腕もいる。小笠原を褒めちぎっていたのはフェイクで、本当は吉田の視察が目的だったのでは」(他球団職員)
また、中村GMは'14年から'15年オフの補強に全敗しているため、1位候補の絞り込みを一任しにくいという。同日、中村GMと虎視察団は、その足で球団事務所に向かい、スカウト会議も開いている。阪神関係者によれば、「高校生の指名候補は30人程度に絞り込まれたが、肝心の1位候補は大学生、社会人にも好選手が多いので結論は先送りになった」というのだ。
「1位候補でスカウトの意見が分かれた場合、阪神はオーナーに一任する伝統があります。オーナーが小笠原目当てで球場入りしたのなら、直接見ることができなかったとしても、彼で決まるのではないか。しかし、関東地区担当を除けば、阪神で小笠原を直接見たスカウトは少ない。その点では、虎の本命は高橋純平かもしれない」(前出・他球団職員)
その高橋は怪我に泣き、岐阜県大会では投げるかどうかが微妙だったが、虎スカウトは登板の確定情報がないまま球場入りしていた。
逆に、高橋に早くから密着していた日本ハムスカウトは「高橋が投げる試合」のみ、ピンポイントで球場入りしてみせたのだ。この日ハムの動きに、虎側は「ヤバイ」と焦り、“高橋詣で”の出遅れは取り返せないと考えて小笠原に切り換えたのかもしれない。
「当然、巨人の出方も気になります。衰えが顕著な内海、杉内の両左腕の後継者として競合覚悟で小笠原に行くと思われますし、阪神は藤浪以降、クジに外れてばかりなので抽選を嫌う傾向も強まっています」(前出・球界関係者)
平沢大河(仙台育英)、オコエ瑠偉(関東第一)の高校生野手も甲子園で評価を上げ、注目が集まっているが、1位の絞り込みに迷っているのは虎スカウトだけのようだ…。