この仕事やってたら出会いって店しかないって言う子もめっちゃおるけど、あたしはお客さんと付き合うのとか絶対考えられへんた! 格好ええな〜とか思う人もいるし、何なら、超ドストライクの人もいっぱい見てきた。
でも、お客さん=恋愛対象外って決めつけてたし、別に店以外でも出会いはあったし、何より仕事のときに気まずくなるやん?絶対ムリ!
だからママに彼が昔からの常連さんって紹介してもらったときも、そこらにいるおっさんとしか思えへんたもん。年齢もあたしのふた回り上って聞いて、親父より年下やん! って思ったん覚えてる。
そんな親父と変わらへん年の差がある彼は、もちろん既婚者で、3歳年下の奥さんと、中学生と小学生の息子ふたりの四人家族やって教えてくれた。
「俺もほんまはひとりくらい娘欲しかってんな〜」
なんて言いながら、あたしの頭をなでる彼の手が、幼い頃になでてもらった親父の手と同じくらい暖かくて、おもわず、甘えてしまいそうになったのを我慢した。
それからも、奥さんとのなれ初めや、息子ふたりの写メを見せてもらったりして、そのたびに周りの同僚から子煩悩やとか親バカやとか言われては嬉しそうに笑ってはった。
もちろん、そんな家族思いの彼が女の子にアプローチをかけることは一度もなかった。でも、気付けばいつの間にか、あたしは“良い旦那”や“良いお父さん”以外の彼の姿をどうしても見たいと思ってしまってた。
「なあ、今夜は帰らんと一緒にいてって言うたらいてくれる?」
「おいおい〜、可愛い娘にそんなん言われたら困るや…」
「娘ちゃうし! あたしかて女や!」
うわ〜、ガキくさっ! って言うてから後悔したけど、その瞬間の彼は、旦那でもなくお父さんでもなく、ひとりの男としてあたしを見ててくれた。店を閉めた後、彼とホテルに行って、隣で朝まで眠れたことがとにかく幸せやった。
そんな彼との体だけの不倫関係は、しばらく続いたけど、突然連絡がとれへんくなって、店にも顔を出さへんくなって、いきなり終わりを迎えた。
でも、今やから言えるのは、彼のことを本気で好きやったわけでもなければ、彼の奥さんから奪いたかったわけでもなく、目の前にあたしがいるのに家族のことで頭がいっぱいな彼に、少しでもあたしを見てほしかったんやと思う。…結局は、私が彼を追いかけて終わる羽目になったんやけどね。
取材・構成 LISA
アパレル企業での販売・営業、ホステス、パーティーレセプタントを経て、会話術のノウハウをいちから学ぶ。その後、これまでの経験を活かすため、フリーランスへ転身。ファッションや恋愛心理に関する連載コラムをはじめ、エッセイや小説、メディア取材など幅広い分野で活動中。
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