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裁判員裁判で勝率1パーセント以下 無罪を勝ち取った男の372日の戦い(1)

 ネット上に犯行予告や脅迫メールが繰り返し書き込まれた事件。警察による誘導尋問の疑いが指摘される中、起訴などの刑事処分を下した検察当局にも再び批判が集まっている。郵便不正事件や陸山会事件で指摘された検察のチェック機能の甘さは、まだまだ改善の道半ばのようだ。
 一方、施行後3年半が経過した裁判員裁判では、性犯罪や強盗致傷事件などの量刑が、プロの裁判官のみによる裁判(裁判官裁判)に比べて重くなる傾向にあることが、最高裁の公表した資料でわかっている。また、裁判員裁判における無罪率は、裁判官裁判よりも0.1%減ったものの、ほぼ横ばい推移だ。(左ページ表)

 この事件は2010年11月1日午後10時過ぎに起こった。罪名は『傷害致死』。後に、殺人及び傷害致死事件の裁判員裁判では、3例目(一審確定判決)となる無罪判決が下る。
 吉野量哉氏(44=出版コンサルタント業)は、東京・JR綾瀬駅近くの自宅マンション付近で、突然、一人の男に絡まれた。
 「おい、この野郎!」と両手を広げて、自転車に乗っていた吉野氏の進路を塞いだ。全く知らない相手だ。
 「おいこら! なんだおまえ…やんのか!? おっ!」
 男は自転車に乗ったままの吉野氏の右側にまわり、罵詈雑言を投げかけつつ肩や胸にタックルするような形で押し倒そうとしてくる。どうやら完全に酔っ払っているようだ。
 吉野氏はとっさに男の両手首をつかみ、自転車から降りてもみ合いとなる。男はなおも暴れ続けた。
 「てめぇ〜、この野郎ぶっ殺してやる、クソガキ!」
 吉野氏がなだめても、どういうわけか男の興奮は収まらない。一度、隙を見て離れることができたものの、タバコを買うためにコンビニに立ち寄ったところで、運悪く、再び男と遭遇してしまった。
 「見つけたぞ! てめぇ、ぶっ殺してやる!」と叫びながら飛びかかってきた。
 危険を感じた吉野氏は顔を両手でかばったが、男は隙間にパンチを入れてくる。押し返すと、今度は右足のすねあたりを数発、思い切り蹴ってきた。
 「いい加減にしろ!」
 吉野氏はとっさに右ストレートを男の左顔に打ち込んだ。ゴツンという鈍い音。数メートルほどよたよたと下がって尻もちをつき、仰向けに倒れ込む。
 吉野氏は男を救護しつつ「救急車を呼んでくれ」と、そばにいたコンビニの店員に頼んだ。そして…駆けつけてきた警察官に緊急逮捕されてしまう。
 翌日、男が搬送された病院で死亡したことを、吉野氏は取り調べで聞かされた。
 「正当防衛であり、無罪」とする吉野氏と、証言者を抱き込み「吉野氏から殴りかかった」というストーリーを描いた検察は、真っ向からぶつかり合った。

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