「ここまでこれたのも苦しいとき、つらいとき、多くのファンの声援があったからこそ。『頑張らな』と耐えしのげた」一昨年の9月26日以来、約2年と3カ月、ディープの専任調教役を務めながら天国と地獄の紙一重の日々を精進しつつラストランを迎える池江敏行助手はファンの温かい応援に感謝の意を第一に口にした。
先週の調教でのこと。久しぶりに飛んだり跳ねたり、わがままな面を見せるディープを「これはダメなことなんだよ」と20発近くステッキを入れてしかりつけた。51億円でシンジケートが組まれている引退間近の身にもかかわらず…。
それもこれも、「最後の方はオレが甘やかしたために、(武)豊が乗らないとキャンターに行かなくなったメジロマックイーンの苦い教訓があったから」と振り返る。同時に、「これが最後なんだから、もうお釣りを残す必要はないからね」と引退の花道を飾るべく一分の隙もない究極仕上げを全国のファンに確約した。
もっとも、ラストランとなる中山芝2500mの有馬記念は昨年、意表を突いたハーツクライの先行策の前にもがき苦しみ、唯一、日本馬に先着を許した。すでに6冠を手中に収めた英雄にとって、ラストランは“鬼門”克服の試練も待ち受けている。しかし、池江敏助手は周囲の不安をよそに、「何だかんだ言われているが、あのときの一番の敗因は雪による悪天候で思うような調教ができなかったことに尽きるよ」と一笑に伏した。
その昨年は木曜追い切りの予定が雪予報のため、水曜追いへと変更。さらに、直前の金曜日にもDWコースが閉鎖された影響でやむなく大外のEコースへ。そこで時計が出すぎる誤算があった。しかし、今年は一転、晴れ渡る青空の下、「追い切りは水曜朝一番」の定刻通り、無事リハーサルフライトを完了した。DWコースで6F78秒9の猛時計に「思い残すことはない」と池江郎師に言わせれば、見納めのラストランに一点の曇りはない。
「豊も追い切り直後に『落ち着いていて素晴らしかったですよ』と言ってくれた。まさか、オレにうそはつかないからね(笑)。もう何も言うことはない。週間天気予報も、日曜日にはばっちり晴れマークだったしね。3冠が懸かっていた菊花賞や、汚名返上を懸けたJCのときもすごかったけど、いったい当日はどんなすごいことになるんだろうね。おそらく、みんな泣いていると思うが、一番大泣きしているのは間違いなく涙腺ゆるゆるのオレだと思う」
聖なるイブに舞い飛ぶディープを支えし揚力は、ダイヤモンドダストのごとく輝く幾千万の感激の涙にほかならない。