テスコは'03年7月に日本に進出、首都圏を中心に食品スーパー『つるかめ』や大型スーパー『テスコ』など117店を展開している。しかし、店舗の半数は赤字で、昨年8月には日本からの撤退を表明し、売却先を探していた。規模では日本の流通業界を圧倒するテスコが、なぜそこまで追い込まれたのか。
「最大のミスは、最初にディスカウントストアのシートゥーネットワークを買収したことです。ディスカウントストアは出店コストを優先するため店舗の規模がバラバラ。テスコは売り場を標準化して本部主導で運営するスタイルのため戦略がかみ合わなかった。当時は欧米の巨大資本が日本に相次いで進出、これに焦ったテスコがバッタ屋を買収したツケに見舞われたのが真相です」(流通紙記者)
日本撤退を決断したとはいえ、なぜ1円だったのか。記者が苦笑して続ける。
「テスコは日本に約300億円を注ぎ込んだ。だから当初は相応の金額が取り沙汰されたのですが、店舗の規模がバラバラでは買い手がない。そこで商売上手なイオンがパートを含む従業員約1900人の雇用を維持することを条件に、1円での商談を成立させた。この助け舟がよほど嬉しかったのか、テスコは日本法人の負債200億円を清算し、事業の再生費用50億円の追加投資も決めています」
それどころかテスコから大幅譲歩を引き出したこと自体、他に引き受け手がいないことを承知しているイオンの筋書き通りだったと解説する向きさえいる。
一方、この手の“1円商談”には、笑うに笑えない話もある。7月から就航を開始したLCC(格安航空会社)ジェットスター・ジャパンは、就航に先立つ4月17日、2時間限定受け付けのキャンペーンとして、9月5日〜12月4日搭乗分の合計1万席を片道1円で売り出した。即刻完売かと思いきや、何と一部の座席が売れ残ったのだ。
「キャンセルしても負担は手数料込で201円にすぎず、何をさて置き、座席を確保すればよかったのです。ところが空席状況を見ながら、旅行のスケジュールを考えているうちにせっかくのチャンスを逃してしまった客が多かった。言い換えれば、それぐらい機を見るに敏でないと、オイシイ話を棒に振ってしまうという見本です」(LCC関係者)
三菱自動車、イオンとも商談のキーワードは雇用維持だったが、その裏にはやはり「機を見るに敏」が欠かせなかったようだ。