前田健太(26)がやりきれない表情で無念を口にしたのは、6月10日。その前日の練習中に左脇腹の張りを訴えた。広島市内に戻って行った精密検査では異常が見つからなかったが、野村謙二郎監督(47)は予定されていた12日の先発登板を回避させることに決めた。
「ペナントレースは長い。いまは無理をする時期ではないし、マエケンが長期離脱するような事態になれば、それこそチームの一大事です」(プロ野球解説者)
広島東洋カープは苦手の交流戦でセ・リーグ首位から陥落。代わって首位に立った巨人を追撃するには前田の右腕が欠かせないが、この状況にネット裏で陣取るMLBのスカウトは厳しい表情を浮かべている。
「前田は故障の多さが気になります。シーズン序盤では右肘を痛め、そのあと打球が太腿を直撃し、今度は脇腹痛。近年の勤続疲労もあるのかもしれないが…」(MLBスカウトの1人)
昨年オフの契約更改で米挑戦の意向を表明。今年オフのポスティングによる渡米は既定路線とも言われていた。
「広島のチーム総年俸は約20億円。マエケンがポスティングシステムの上限額(20万ドル)で落札されれば、広島はチーム総年俸分を得るわけです。マエケンを売れば1年分の人件費が浮く、と皮算用していた(笑)」(前出・解説者)
球団が前田の挑戦を後押しする背景として、見返りに20万ドルの落札金が得られることは否めない。だが、一連の故障続きで目論見は崩れつつある。
「落札金の上限額は広島球団が決めますが、上限額の20万ドルが設定されたら、二の足を踏む米球団が出てくるでしょう。田中(将大)に『7年1億5500万ドル』(約161億円)の高額提示がされたのは、ヤンキースが金持ち球団だからではない。長期離脱するような怪我の経験がなく、肉体的にもタフだからです」(前出・メジャースカウト)
先発ローテーションを守りきるタフネスさがなければ、球団側は大金を積めない。現時点で「落札金は12〜13万ドル」というのがおおよそのメジャー球団の評価で、「契約年数も2、3年」と目されている。前田も治療に専念したいはずだが、チームのことを思って無理を続けている。それが自身の評価を落とす原因になっているのは皮肉な限りだが、こんな見方もある。
「前田が『行きたい』と言えば、広島は止めないでしょう。それに、20万ドルの上限額が設定されば、米球団側は慎重になる。でも、裏を返せば、その条件でも入札してくるのは本当に前田を欲しいと思っている球団です。1年目から高額年俸で契約すると、周囲の評価は厳しくなる。黒田(博樹)のように年数を重ねるごとに自身の年俸も上げていく方が良策です」(同)
いまの前田の状態では、応札球団がゼロになる可能性もある。上限額を落として堅実に落札金を得るか、20万ドルで“冒険”するか。広島も難しい選択となりそうだ。