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プロレスラー世界遺産 伝説のチャンピオンから未知なる強豪まで── 「フレッド・ブラッシー」ショック死事件を起こした“銀髪鬼”

 視聴者がショック死した伝説の噛みつき攻撃、悪役に徹したマイクパフォーマンス…。フレッド・ブラッシーが残した爪痕は、今もなお色あせることはない。

 企業におけるコンプライアンス(法令順守性)に厳しい目が向けられる今日この頃、これはプロレス団体も同様で、そのためにめっきり少なくなったのが“流血”だろう。
 かつては試合の見せ場の一つであったが、今はあったとしても事故によるものぐらい。故意の反則による流血は「凄惨で暴力性が強く青少年に悪影響を及ぼす恐れがある」ということで、明確に禁止している団体もあるほどだ。
 鮮血ほとばしることが日常茶飯事だった時代と現在を比べて、どちらがいいかは意見も分かれようが、確実に言えるのは、今節のマット界においてブラッシーは決して悪役スターになり得なかったということだろう。

 第二次世界大戦にも出征したアメリカ海軍上がりで、デビュー当初は小柄なテクニシャンだったブラッシーが、本格ヒールに転向したのは1950年代半ばのこと。自ら“吸血鬼”を名乗り、噛みつきと“トラッシュトーク(汚い罵倒)”を主武器として一躍トップヒールに上り詰めた。
 白黒映像でも流血が映えるようにと、赤毛の髪を明るい金髪(日本では“銀髪鬼”と呼ばれた)に染め、コスチュームも白や淡い色を選ぶという念の入れようであった。

 初来日は1962年(昭和37年)に開催された第4回ワールド大リーグ戦。その最中に行われた6人タッグマッチ(ブラッシー&ルー・テーズ&マイク・シャープvs力道山&豊登&グレート東郷)はテレビで生中継されたが、試合中に日本プロレス史に残る“事件”が起きた。
 ブラッシーが得意の噛みつき攻撃を執拗に繰り出すと、これを受け続けた東郷は額から大流血。その様子を見た視聴者がショック死してしまったのだ(死亡者数については2人〜6人など諸説あり)。しかし、亡くなった方々はいずれも高齢で、なおかつ既往症があり、必ずしもこれが死因とは言い切れないだろう。
 とはいえ、流血場面の最中に複数人が亡くなったことに間違いはない。折しもカラー放送が始まった直後のことであり、テレビ画面いっぱいに広がった赤い鮮血が、殊更に刺激的であったことも事実だった。

 そのため批判の矛先は、主催社である日本プロレスと中継した日本テレビへ向かうこととなる。
 「死亡事故を起こしたとなれば、今なら放送中止はもちろんのこと、会社自体も経営責任を負わされる。ところが、このときは『当面のカラー放送を見合わせる』というだけで収まっています」(プロレスライター)

 当のブラッシーは「アメリカでは60人以上死んでいる!」と平気な様子で、以後もたびたび来日していることから事実上の“無罪放免”であった。また、日本テレビ側も「高血圧の老人や特殊な病人まで配慮しきれない」と、今なら社会問題に発展しそうな“暴言”を放っており、これも時代ということか。
 「問題となった試合の前週に放送された力道山とブラッシーのシングル戦が思いのほか好評で、そのため文字通りの“噛ませ犬”として東郷をあてがい、鉄人テーズを脇に置いてまでブラッシーを大々的に売り出そうとした。そんな矢先のことであり、日テレにしてみれば、むしろその出ばなをくじかれて、儲け損なったというぐらいの心情だったかもしれません」(同)

 しかし、10年以上にわたって来日を続けながら、ブラッシーが初来日時の“流血事件”に比肩するほどの話題を残せなかったことを見ても、団体側に多少なりとも自粛ムードがあったことがうかがえる。

 ブラッシーは現役引退後の'74年から、WWWF(現WWE)で悪役レスラーのマネージャー役を務めるようになり、まったく別の形で再来日を果たす。アントニオ猪木vsモハメド・アリの異種格闘技戦において、アリ陣営のアドバイザーに加わったのだ。
 「プロレスラーとの試合における対策をアリに授けるというのが建前で、猪木サイドからは“プロレスを裏切った”などと批判を受けましたが、実際のところはエンターテインメント部分での盛り上げ要員でした」(同)
 暴言、放言で鳴らしたアリが、トーク術の参考としたのが誰あろうブラッシーで、プロレスラーとの試合ということで“トークの師匠”を連れてきたわけだ。

 流血試合が激減した今、その噛みつき攻撃を踏襲するレスラーは見当たらない。しかし、一方で口汚い悪徳マネージャーとしてのブラッシーは、プロレス界に強い影響を与え続けている。

フレッド・ブラッシー
1918年2月8日〜2003年6月2日、アメリカ合衆国ミズーリ州出身。身長178㎝、体重100㎏。得意技/噛みつき攻撃、ネックブリーカー。

文・脇本深八(元スポーツ紙記者)

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