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USA発 新聞、テレビではわからないMLB「侍メジャーリーガーの逆襲」 ダル提案「先発6人制」が無視されるのはなぜ? 異常に高い日本人投手 トミージョン手術率の原因

 ここ数年トミージョン手術(以下TJ手術)を受ける日本人投手が急増している。この10年間のデータを見ても日本人投手のTJ手術率は25%(24人中6人)という高い率で大リーグ平均の16%よりずっと多い。
 それに加え、日本人投手は手術が失敗に終わるケースが多い。同手術を受けた6投手のうち今年3月に受けたダルビッシュは来年にならないと結果が判明しないが、すでに結果が出ている5人は、大塚晶則が再起不能、松坂大輔と藤川球児は大幅なレベルダウンで投手生命の危機を迎えている。この3人を失敗と定義すれば失敗率は6割(5例中3例)にもなる。メジャーの投手の失敗率は3割前後と推定されているので、TJ手術はメジャーで投げる日本人投手にとって生殺与奪権を握る手術になったといっても過言ではない。

 これらは、すでにメジャーの球団関係者や記者連の間で知れ渡っており、日本人投手の評価が暴落する最大の要因になっている。
 「これまでメジャーの金満球団は日本のスター投手に、1億ドル(120億円)超の投資をしてきたけど、TJ手術で莫大な金が無駄になっている。レッドソックスは松坂に1億300万ドル(124億円)の投資をしたがTJ手術で3400万ドル(約41億円)が無駄になったし、レンジャーズもダルビッシュに投資した1億700万ドル(128億円)の3割くらいが死に金になるのは確実だ。これほどリスクが高いと当然どの球団もおよび腰になる。当分は、日本の大物投手がメジャー行きを表明しても契約規模が1億ドルを超えることはないだろうね」(契約関係に詳しい大リーグ球団のスカウト)
 日本人投手の暴落はすでに現実のものとなっていて、前田健太も少し前までは1億ドル級の契約になると予想されていたが現在は3割ないし4割、契約規模の予想値が下がっているという。

 メジャーでは日本人投手のTJ手術率が高いのは、高校時代からのヒジの酷使や120〜150球が当たり前の前近代的な野球環境でヒジが脆弱になっているのが根本的な原因とみる傾向が強い。
 しかしこれは、ヒジを消耗品と考えるメジャー独特の発想が作り上げた仮説にすぎず、具体的な根拠がある主張ではない。確かに日本のプロ野球の投手は、大半が高校時代に酷使された経験があり、プロ入り後は150球前後投げることが当たり前と思って投げている。しかし、ヒジの腱を痛めてトミージョン手術を受ける投手は3.6%でメジャーの16%よりはるかに少ない。

 ダルビッシュは、原因が先発投手を5人で回すメジャーのシステムにあると見て、昨年、田中将大がヒジの故障でDL入りした折に、先発ローテーションを6人制にすべきだと主張し、米国のスポーツメディアで大きく報じられた。しかし、それに対する反応は鈍く、ほとんど無視された。
 理由ははっきりしている。先発を6人にすれば、リリーフ投手が7人から6人に減り、皆、登板過多でパンクするからだ。

 メジャーではどのチームも投手を12人ベンチに入れ、5人を先発、7人をリリーフで使っている。リリーフ投手は1試合平均で3人登板するので、登板数は1シーズン=162試合でのべ486登板になる。そのため7人いても一人当たりの登板数は70試合前後になる。
 日本では年間60試合程度が限度で70試合投げさせると壊れると思われている。その壊れるとされる試合数をメジャーのリリーフ投手は普通に投げているのだ。そんなギリギリの状態なのに、定員が1人減れば一人当たりの登板数は80試合になり壊滅状態になる。
 それを考えればリリーフの枠を先発に一つ回すことは不可能なのだ。

 メジャーではベンチ入りできる選手は25人で大半の球団が野手13人、投手12人の配分で戦っている。野手のレギュラーはDHも入れて9人なので、控え選手は4人しかいない。180日間の間に162試合も戦う超過酷なスケジュールを乗り切るには、野手を休ませながら使わざるを得ないので、野手の定員を一つ減らして先発を一人増やすこともできない。
 現実的に考えるとベンチ入り25人、1シーズン180日で162試合という縛りの中でダルの言う6人ローテを実現するのは無理がある。一番いいのは日本のようにベンチ入り選手を28人、試合出場選手を25人にすることだ。米国の経営者は効率を最大限追求するので180日間で162試合を戦うシステムを変えることは難しいだろう。しかしベンチ入り枠を三つ増やして、6人目の先発投手、8人目のリリーフ投手、内野の控え1人の計3人が増えても出費増はたかが知れている。
 プロ野球の国際化が急速に進み、わが国では大リーグ使用球を公式球にする動きが加速している。ならばその見返りに、日本側からメジャー側に、ベンチ入り規定に関しては、日本のものを国際ルールに採用するよう提案するくらいの積極性があってもいいのではないだろうか。

スポーツジャーナリスト・友成那智
ともなり・なち 今はなきPLAYBOY日本版のスポーツ担当として、日本で活躍する元大リーガーらと交流。アメリカ野球に造詣が深く、現在は各媒体に大リーグ関連の記事を寄稿。'04年から毎年執筆している「完全メジャーリーグ選手名鑑」(廣済堂出版)は日本人大リーガーにも愛読者が多い。

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