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USA発 新聞、テレビではわからないMLB「侍メジャーリーガーの逆襲」 不安説が吹き荒れる中で三振の山を築く 「2年22億円」の契約は快挙 40歳の守護神・上原浩治

 今シーズンの上原浩治を語る上でまず触れておかなくてはいけないのは、2年1800万ドル(21億6千万円)という破格の契約だ。

 上原は昨季8月中旬まで、レッドソックスのクローザーとして安定した投球を見せていた。しかし8月16日の試合から突然最大の武器であるスプリッターが落ちなくなり、甘く入って痛打されるケースが続いた。
 炎上はすぐに収まらず6試合で被本塁打4、自責点10という大荒れのピッチングが続いたため、チェリントンGMはファレル監督と相談し、9月初旬に上原をクローザーから外すことを決定。上原は中継ぎに回されてシーズン終了まで投げた。

 クローザーを外すときは「一時的な措置」であることが強調されるが、実際に復帰するケースはそう多くないため、アナリストや野球記者の多くは、レ軍が40歳になる上原を再度クローザーで使う可能性は、ほとんどないと見ていた。
 「上原に関しては、シーズン終了後、FAになって1年600〜800万ドルくらいの契約でBクラスの球団と契約することになると見る向きが多かった」(スポーツ専門局のアナリスト)

 ところがオフに入るやいなや、レ軍が真っ先に契約したのは上原だった。しかも2年1800万(21億6千万円)という破格の条件での契約だった。
 「これはビッグ・サプライズだった。それまで40歳以上で2年契約にサインしたリリーフ投手はマリアーノ・リベラ(元ヤンキースの守護神)しかいない。まさか上原が2人目になるなんて、思ってもみなかったからね」

 レ軍は上原を9月初旬、クローザーから外している。にもかかわらず、わずか50日後に年俸225%アップの2年契約で再契約したのは、8月下旬の大乱調の原因を正確に把握していたからだ。腰の不調が原因だった。腰が悪いと投げ込む際に下半身を十分使うことができず、上半身だけで投げるようになる。それがスプリッターの著しい威力低下につながっていたのだ。
 そのことを理解したレ軍は腰の不調さえ防げば、まだまだクローザーで使えると判断し2年契約を交わして囲い込むことにしたのだ。

 この球団の判断をメディアはどう受け止めただのろうか?
 「2年契約は長すぎるという声が多かった。上原は今年40歳だけど、肉体的な衰えが急速に進む年齢なので、途中で機能しなくなると危惧していたよ」(同)

 こうした年齢的な衰えに対する危惧は、今シーズンが開幕すると「もう一人のクローザーを獲得せよ」という声に変化していった。
 そのような声が出るようになったのは、開幕後、上原がスプリッター75%、速球25%という極端にスプリッターに依存したピッチングを見せるようになったからだ。昨年までは速球50%、スプリッター50%だったが、速球のスピードが142キロから138キロに落ちたため、スプリッターへの依存度が高くなったのだ。

 上原懐疑派の目には、こうした苦し紛れのピッチングではとてもクローザーは務まらないと映った。そこで「もう一人クローザーを獲得せよ」という主張になった。4月25日の5試合目の登板で上原が2失点して敗戦投手になると、上原懐疑派はさらに勢いを増し、「ジョナサン・パペルボンを呼び戻せ」という論調まで現れた。
 パペルボンは'06年から'11年までレッドソックスのクローザーを務めた豪腕タイプで、現在はフィリーズのクローザーを務めている。ワガママな言動が多い悪ガキ・タイプのためフィリーズは手を焼いており、トレードで放出することを画策しているので、レッドソックスファンの中には、うちで引き取れという声が出ているのだ。

 こうした「守護神交代待望論」は4月中、勢いがあった。しかし5月に入って上原が無安打ピッチングを続けるようになると鳴りを潜め、上原に対する逆風は止んだように見える。
 しかし、これは一時的なもので、2度連続してセーブに失敗するようなことがあれば、年齢的な衰えを過度に強調した「クローザー交代論」がまた出現するだろう。
 ボストンは、メディアもファンも辛辣で、味方の選手に対しても無遠慮な言葉を平気で浴びせかける。レ軍にいた頃、松坂大輔は「投資金額の半分も働かない役立たず」「いつも同じ失敗ばかりするブタ頭」と酷評されている。こうした雑音を最小限に抑えるには、カネに見合った働きをするしかない。米国のファンは対費用効果を重視する傾向が顕著だからだ。

 上原の場合「カネに見合った働き」の線引きは以下のようになる。
(1)セーブ成功率90%以上
(2)WHIP(1イニングあたりの「被安打+与四球」)0.80以内
(3)防御率2.20以下
(4)奪三振率(9イニングあたりの奪三振)11.50以上
 これらの数字をすべて満たしていれば、フェンウェイパークのファンはブルペンを出てマウンドに向かう上原を「コージ、コージ」の大合唱で迎えてくれるだろう。

スポーツジャーナリスト・友成那智
ともなり・なち 今はなきPLAYBOY日本版のスポーツ担当として、日本で活躍する元大リーガーらと交流。アメリカ野球に造詣が深く、現在は各媒体に大リーグ関連の記事を寄稿。'04年から毎年執筆している「完全メジャーリーグ選手名鑑」(廣済堂出版)は日本人大リーガーにも愛読者が多い。

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