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人物クローズアップ 加藤健一

 二組の老夫婦と孫の離別を通じて家族のきずなを描いた「川を越えて、森を抜けて」が現在、下北沢の本多劇場で上演されている。笑いと涙を織り交ぜ、親子とは何か? 家族とは何か? 見る者に訴えかけるハートフル・コメディー。主役のフランクを演じる加藤健一(59)に話を聞いた。

 原作は米の劇作家ジョウ・ディピエトロが自身の家族について描いた戯曲。初めて舞台にかけた演目だったが、安心して初日を迎えられたという。
 「けいこの段階からうまくいってたし、手ごたえがありましたから。けいこは1カ月半ほど。演出家の高瀬久男さんも“必ずうまくいく”と自信を持ってたので、安心してお任せしました。まぁ、失敗する作品はけいこの段階からもめるものですが、今回は1から10まで演出家の言うがまま。指示が的確だったからです。そのイメージを舞台で再現すれば、必ず成功すると思っていました。それに僕自身、原作を読んだときは感動して、泣き笑いでしたから(笑)。これは大丈夫、必ず観客も感動すると」
 米ニュージャージー州の小さな町に住むフランクとアイーダ(竹下景子)夫妻。その2軒隣には娘の夫の両親ヌンツィオ(有福正志)とエンマ(一柳みる)夫妻。そして、両祖父母の近くで暮らす孫のニック(山本芳樹)。毎週日曜の夜は、そろって夕食を共にする仲の良いイタリア系家族。だが、ニックのシアトル転勤が決まり、それを阻止すべく祖父母らは若い女性のケイトリン(小山萌子)とお見合いさせるという話だ。
 「家族の話を軸にした会話劇で、ストーリー的なものはほとんどありません。孫が転勤で家を出て行く、それをジジババが引き止めるという、ただそれだけの話。物語に展開はないけど会話がオシャレなので、セリフで観客は引き付けられる。ストーリーを書かずに引っぱっていけるのは作者に不思議な、相当な筆力があるからだと思います。話に行き詰まると事件を起こしたり、何か展開させたくなるもの(笑)。でも、この話にはそれがない。作者に自信があるんでしょうね」

 映画「ゴッドファーザー」の例を出すまでもなく、イタリア系アメリカ人は家族のきずなが強固なことで知られている。マフィアに限らず、ごく一般的な人々でもだ。この話もイタリアとアメリカという二つの国のフィルターを通した“異国”の話。だが、演じられる舞台は驚くほど、そっくり日本社会にも当てはまる。
 「原作を読んで感動できるのは、国に関係なく共通項があるということです。とても海外の話は思えない。日本と非常に状況が似てるんですよ。僕らの二世代ぐらい前までは家族のつながりが濃密でした。でも、私の世代あたりから親と一緒にいることが少なくなって、さらに下の世代はもっと関係が希薄でしょう。現にこの話でも主役はニックの祖父母で、両親は出てきませんし」
 日本の観客が違和感なく受け止められるのはアメリカっぽさが強調されていないから。それが異国的ではなく、身近に感じられる要因だろう。
 「あまりアメリカっぽくすると逆に感動できないんですよ。ずっと昔なら外国人を演じる際は顔にシャドー塗って金髪のカツラ、付け鼻つけたりしてましたけど、今はやってません。外国の話でも無国籍っぽくするのが最近の潮流でもありますし。それに今回は4人とも顔も体型も超日本人ですから(笑)。着るものもアメリカっぽくならないようにしています。自分としては外国人を演じているのではなく、人間を演じているんだと。そこに存在する共通点を演じれば、見る人には伝わると思うんです。じゃないと逆に離れてしまうでしょう」
 上演時間は2時間、途中で休憩を挟む長尺物。途中で劇的に盛り上がることも、緩んでダレることもなく、話は淡々と進む。しかし会場からは絶えず笑いが起こり、そしてすすり泣きが聞こえる。確かにストーリー的なものはないのに、観客を飽きさせることがない。
 「原作を読んだとき、ちょうど2時間ぐらいになるかなと予想してました。実際やってみたらテンポもちょうどいい。これ以上早くても遅くても難しいですね。これも50代の俳優が80代の役を演じる方法をとっているからでしょう。本当の80代の役者だと、このテンポはキツい。俳優と役割の20〜30歳というギャップ、これが大きいんです。50代である私たちが80代を遊んでいるわけで。言わば青島幸男さんの『いじわるばあさん』みたいなものですよ(笑)」
 劇中、竹下演じるアイーダとのキスシーンがある。実はここが最もこだわったシーンだという。
 「もちろん最初から台本にありましたよ、途中で付け加えたりしてません(笑)。80歳の老人同士のキスシーンですから、もし日本人夫婦だと何となく気恥ずかしいですが、アメリカ人夫婦ですから何気ない感じで。でも、会場がシーンとなるかと思ったら笑い声が聞こえて。今までキスシーンは数え切れないぐらい演じてきましたが、笑いを取ったのは初めて(笑)。ダンスを踊ったり歌を歌ったりして青春を回顧するシーンの後だったので、なおさら艶(なまめ)かしかったのでしょう」
 演じる側と見る側の気持ちがピタッと重なった、心地よい舞台。上演は本多劇場で29日まで。31日には東京・亀戸のカメリアホールでマチネ(昼)公演が予定されている。
 「客席での笑いが、すべてこちらが予想していたところでズレなく起こっていましたし、舞台も客席も雰囲気よかったですね。ただ、キスシーンだけは笑いを計算できなかったけど(笑)。上演が終了してもお客さんからの要望があれば、ぜひ再演したいですね」

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