記者という身分を隠して潜入を繰り返した末、ようやく“核心”に辿り着いたのは、通い始めて1年が経った頃だった。
「最近、芸能人と飲みたい、できれば“その先”もしたいっていう成金連中と仕事してるんだけど…。こういうのって、誰に頼めばいいんですかね?」
タイミングを見計らって店長に持ちかけると、ある人物に連絡をとってくれた。
後日、『Z』の個室で迎えてくれたのは、40代半ばの紳士だった。
仕立てのいいジャケットを着こなし、腕には高級時計のオーディマ・ピゲを巻いている。短く刈り込まれた髪に精悍な顔つき、ジャケット越しでも分かる屈強な体つきで、黙っていても威圧感がある。
彼が、いわゆるカタギでないことは、個室の外に立つ「若い衆」の存在からも明らかだった。
「回りくどい話はやめましょう。このリストにあるタレントなら、私のほうで“都合”つけられますよ」
そう言って渡されたのが、クリアファイルに挟まれたA4用紙2枚の紙だった。
ひと目で息を飲んだ。そこには、名だたる女性芸能人の実名と値段が書かれていたからである。
●グラビアアイドルS 200万円
●人気タレントY 200万円
●国民的アイドルグループの下位メンバー 30万円
●ママタレX 150万円
●現役トップクラスの女優A 1000万円
●往年の人気女優I 500万円
記者が、この“売春名簿”を閲覧できたのは、時間にして1分にも満たなかった。他にも錚々たる名前が並んでいたが、途中で閲覧終了を告げられ、ファイルを取り上げられた。
「本当に彼女たちを抱けるんですか? 時間はどれくらい? 一晩?」
質問を遮り、仲介者は静かにしゃべり始めた。
「いくつか条件があります。まず、身分証をこの場で2種類以上見せること。初回は保証金代わりに、別途100万円を預けること。女性には紳士的に振る舞うこと。連絡先の交換もNGです。そして、間違っても録音・録画をしようと思わないこと。した場合は…お分かりですよね。彼も(Zの店長)迷惑を被るし、あなたにも相当シビアなことをしなきゃいけなくなる。あなたが紹介してくれたお客さんが狼藉を働けば、あなたも同等の責任を負う。これが基本的なルールだと頭に入れてください。時間はだいたい2時間を目安に。こちらで予約したホテルで遊んでいただく感じです」
何度も同じ説明をしているのだろう。仲介者の説明は淀みなく流暢でありながら、彼ら特有の迫力を伴うものだった。
「このリストにない芸能人で気になる女性がいたら、言ってください。都合がつく場合もあるから。今日はこの辺にしておきましょう」
そう言ってグラスを空けると、仲介者は席を立って個室から出ていった。
あまりの衝撃に呆然としていると、個室にZの店長が顔を出した。
「どうだった?」
「どうもこうも…。あれ、ホントに本当なんですか? 芸能人って言っても、どうせ売れないグラドルレベルだと思ってたんだけど…」
「僕が保証しますよ。実際、彼からの紹介で遊んでるお客さんも大勢いますから」
「彼、何者なんですか? どう見てもカタギじゃないよね」
一瞬、店長の顔が曇った。
「そう、本職(現役のヤクザ)だよ。大手(指定団体)の二次団体の幹部クラス」
だとしても、なぜ、こんなことができるのか。こちらが質問する前に、店長が種明かしを始めた。
「あの人は、芸能界に女の子を送り込む“入り口”から関係してるんだよ」
(明日に続く)