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【不朽の名作】原田知世と南太平洋の風景が存在感を発揮する「天国にいちばん近い島」

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パッケージ画像です。

 80年代から90年代初頭にかけて、角川春樹事務所は数々のアイドル映画を企画してきた。1984年公開の『天国にいちばん近い島』もそういった作品のひとつだが、この作品は、海外ロケをメインとしている点で珍しい。

 同作は主役の女子高生・桂木万里が、死んだ父親に昔聞いた「天国にいちばん近い島」を探すために、南太平洋に浮かぶ島、ニューカレドニアに行き、そこで様々な人々と交流していくという内容になっている。主役の万里は、83年に『時をかける少女』でデビューし、アイドル的な人気を博していた原田知世が演じている。

 この作品はニューカレドニアでの主人公の行動を淡々と映すというものになっており、ストーリー的に大きな起伏というのがほとんどない。目的自体は、大学生あたりが、ある日突然自分がわからなくなり、突発的に旅に出掛けてしまう、「自分探しの旅」と大差ない。それでも作品として成立してしまっているのが、この作品の注目すべき点なのだ。

 万里というキャラクターは、清純さを強調した感じとなっており、「こんな子いねえよ!」とツッコミたくなるほど、どこも汚れていない透明感を出している。乱暴な言い方をすれば、他の登場人物と比べて、万里が異質な雰囲気を放っているだけでこの作品の7、8割くらいは成功してしまっている。当時の原田ありきで作られた、まさにアイドル映画といえる1本だ。ストーリーよりも万里のしぐさに目が行く。

 一応現地の日系人であるタロウ・ワタナベ(高柳良一)との交流によるラブロマンス的な要素もあるにはあるが、突然その展開は切り捨てられてしまう。わざわざ、『時をかける少女』と相手の男性キャストを同じにしたのに、だ。他にも、序盤で自称個人ガイドの深谷有一(峰岸徹)との奇妙な交流も描かれるのだが、有一に案内された場所の風景が自分の探していたものではないと、別れてしまい、あっさり終わってしまう。

 全てがドジでメガネで引っ込み思案な少女が少しだけたくましくなるという要素に手を貸しているにすぎない。あとは、ツアーでの旅の行程を無視して向かったウベア島の海岸で、エイを踏んで高熱を出しピンチに陥る場面や、終盤に戦争未亡人・石川貞(乙羽信子)との交流で、若干心境の変化を見せるシーンがあるものの、そのどれもがやはりあっさりしており、全く印象に残らない。ラストに「天国にいちばん近い島を見つけました」と万里が言っても「ふーん、そうなんだ」くらいの印象しか感じないほどに。また、原田の演技もまだデビューして間もないので、特別良いというわけではない。むしろ演技は下手な方だ。だが、南太平洋の島にちょっと不思議な雰囲気の高校生が立っているという、これだけの要素で、この作品のファンタジーのような魅力が引き出されてしまうのだ。不用意に万里の水着シーンなどを入れなかったあたりも、ファンタジー感を強くしているだろう。

 万里という主人公以外に、この作品の魅了する点を挙げるとすれば、ニューカレドニアの景観だろう。この景観に清純度が強い万里が佇んでいるということが重要となる。この部分を強調させるために、万里が出会う他のツアー客やスタッフがかなり俗っぽい描かれ方をしている。当時はよく日本人の海外旅行批判のひとつとなっていた、あのパックツアー特有の騒がしく慌ただしい感じだ。ガイド役の小林稔侍などは特にその傾向が強く、万里に対して「余計な行動は取るな」と強めの注意をしてくる。まあ、ツアーで行っているのだから当たり前といえば当たり前なのだが、作品の雰囲気のせいで、原田が自分勝手な行動ばかりで怒られているのにも関わらず、ガイド側が完全に悪役ポジションになっているのが面白い。

 基本的に万里を眺めながらついでにニューカレドニアの島々の雰囲気を感じるという、観光PR映像のような作品となっている。話の起伏がないわけではないが、なにかそれで強く引き込むタイプの作品ではない。「原田が可愛い」「風景キレイ」この2点で大体の事が許されてしまう作品だ。

 こういった形式の作品は、現在ではアイドルはもちろん、より浮世離れ感が演出できるアニメですら、なかなかお目にかかれる作品ではなくなっている。併映作品が『Wの悲劇』だったことでイマイチ存在感が薄い本作だが、今やこっち方が斬新な作品と感じるかもしれない。

 なお、当時ニューカレドニアはフランスからの独立運動で揺れており、劇中冒頭で「みんな、みーんな幸せなんだよ」という台詞があるが、その台詞とは違い、当時はかなり危険な雰囲気も漂っていたそうだ。実際にこの作品の公開翌年には暴動なども発生している。しかし、作中ではそういった雰囲気は一切感じず、楽園と言える風景の数々が目に入ってくる。社会的な部分は意図的に隠して、映画を観た人に独立問題を調べて知ってもらうきっかけにしようという狙いがあったとも言われている。そのことに力を貸したかどうかは定かではないが、この作品公開後、日本人のニューカレドニア旅行者自体は増えたようで、特にロケの中心となったウベア島には多くの日本人が訪れるようになったという。

(斎藤雅道=毎週土曜日に掲載)

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