さらには議会として打ち出した偽証をすれば刑事罰に問われる百条委員会の設置も、共産党以外の自民、公明、民主の意向で見送られることになった。都議会による猪瀬知事の追及はすべて終わったということになる。本当にこんな幕引きでいいのか。
都議会の総務委員会での猪瀬知事の答弁は、疑惑だらけだった。5000万円の現金を保管していた貸金庫は、そもそも妻が借りていたものではなく、資金受け取りの前日に慌てて借りたものだった。しかも、その貸金庫は資金受け取りから半年も経って、東京の銀行から横浜の銀行に移し替えられていた。知事は、それまで資金には一切触れていないと証言していた。
猪瀬知事の追及は、今後、検察の手に委ねられることになるが、問題はそこではない。徳洲会グループは、鹿児島でバラマキ型の選挙を行い、親族からも逮捕者を出している。同じことを東京でやっていない保証はない。都議会議員、あるいは国会議員にも、徳洲会マネーを受け取っていた議員がいるのではないか。
そもそも、都議会での追及は不思議なことだらけだった。12月5日から始まった東京都議会の代表質問で、与党である自民党と公明党が、猪瀬都知事に5000万円の金銭受領に関する説明を求めなかったのだ。そして民主党までが、翌日から同じ対応をとった。
「一問一答のやり取りができない代表質問では、十分な追及ができない」という理屈がつけられたが、共産党は答弁を求めていた。そして、自民、公明、民主は、百条委員会の設置にも当初から時期尚早と否定的だった。猪瀬知事追及のため開かれた総務委員会も、知事の答弁が二転三転して信用できないとして、途中で打ち切ってしまった。
都議会は明確に猪瀬知事を辞任に追い込もうとしていた。知事に解散権を行使されるのが怖かったという説もあるが、それだけが理由とは思えない。
もし、疑惑をすべてクリアにしようと思うのであれば、全ての都議会議員が徳洲会マネーを受け取っていないか調査し、資金提供側の徳田ファミリーからの証言も求めるべきだったろう。それをまったく行わず、猪瀬知事の辞任で幕引きを計ったのは、一種の取引が成立したからではないのか。
疑惑が都議会議員から国会議員にまで広がれば、政権を揺るがすスキャンダルになる。ならば、猪瀬知事に給与も退職金も支払い親切な人からお金を借りただけという形で名誉を守る。その代わりに、猪瀬氏は、今後、この問題に関して貝になるという取り引きだ。
猪瀬知事は、今後一人の作家に戻るという。元々優秀なジャーナリストだったのだから、もう一度ジャーナリスト魂を発揮した作品を発表して欲しい。私が期待するタイトルは、「お前らだってもらっていたじゃないか」だ。もしこの本を出してくれたら、私は10冊まとめて買う約束をする。