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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 再生可能エネルギーを急げ

 政府は、8月4日と5日に2030年の電源構成を決めるための一助として、討論型世論調査を行った。電話で無作為に選んだ6849人の中から、希望者を中心に300人を選び15人の20組に分かれて討論を行うというものだ。
 政府は再稼働反対派のガス抜きを狙ったのだろう。しかし、その思惑は外れた。反原発派が議論の主導権を握り、推進派が沈黙を強いられる場面が続出したからだ。強行突破が難しいとみた政府は、8月中としていた将来の電源構成の決定を先送りする構えに出ている。

 しかし、原発依存度の議論よりも優先して取り組まなければならない課題がある。それは、再生可能エネルギーをどうやって拡大するのかという議論だ。電源構成の3つのシナリオは、原発依存度を0%、15%、20〜25%としているが、どのシナリオでも再生可能エネルギーへの依存度は、25〜35%となっている。現状の再生可能エネルギーの依存度は10%だから、いまから20年足らずで再生可能エネルギーの比率をおよそ3倍に増やさねばならない。
 いまのように大部分の電源を火力に依存していると、化石燃料の供給途絶リスクや価格上昇リスクから逃れられない。しかも、温室効果ガス削減のことを考えたら、再生可能エネルギーに電源を移していく以外に選択肢はないのだ。
 ところが、現在の再生可能エネルギーの比率のうち、8.7%を水力が占めている。水力を除いたいわゆる新エネルギーの比率は1.2%に過ぎない。水力の割合を現状通りだと仮定すると、30%という再生可能エネルギー比率を達成するためには、新エネルギーの比率を1.2%から21.3%へと、18倍にしないといけないのだ。実際、政府のシナリオでも、再生可能エネルギーの比率を30%とするために、現状90万戸の太陽光パネル設置家屋を1000万戸に増やすことになっている。これは設置可能な住宅ほぼ全てに太陽光パネルを設置する勘定だ。また、風力発電も、東京都の10分の1の面積に設置されている現状を東京都の1.6倍の面積まで拡大する必要がある。そんなことが、2030年までに可能なのかと疑う声も強い。

 政府は、7月から始まった再生可能エネルギーの買い取り制度に大きな期待を寄せているが、問題はコストだ。たとえば太陽光の今年度の買い取り価格は、1キロワット・アワーあたり42円となっており、火力や原子力の発電コストの4倍なのだ。
 コスト高は電気代に反映される。今年度の標準家庭の上乗せ額は、月額87円と、さほど大きな金額ではないが、今後買い取り規模が拡大していくと、1000円を超えるだろう。もちろん企業の電気代も引き上げられるから、国際競争力にも影響が出てくる。
 再生可能エネルギーの買い取り制度で、日本を大きくリードしてきたドイツは、早ければ2016年にも新規の太陽光発電による買い取りを中止することを決めた。コスト負担があまりに大きくなりすぎたからだ。
 だから、新エネルギーのコスト低減に全力を注ぐとともに、水力と地熱を積極的に増やす努力が必要だろう。水力発電の拡大には、最も強い既得権といわれる水利権との調整が必要だ。地熱も環境への配慮をしながら開発すると、発電に至るまで10年を要する。だからこそ、早く第一歩を踏み出さねばならない。再生可能エネルギーは、議論している段階ではないのだ。

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