連立交渉の焦点になっているのは、やはり「移民問題」だ。2017年の総選挙におけるAfD(ドイツのための選択肢)躍進を受け、特にCSUが移民問題について強硬姿勢を貫いており、連立交渉の行方は予断を許さない。CSUは「難民の家族呼び寄せを禁止する」など、強い「反・移民政策」を掲げ、SPDに踏み絵を強いている状況だ。
お隣のオーストリアでは、国民党と「反移民」を掲げる自由党によるクルツ連立政権が発足したのだが、連立合意において、
●難民申請者から所持金を取り上げ、滞在経費に充てる
●身元確認のための携帯電話検査
●難民申請を却下された場合、即座に送還
●一定の基準を満たさないイスラム教徒向けの保育園、私立学園の閉鎖
など、これまでのEUの常識からするとラディカル、筆者から見れば「真っ当」な反移民政策が決定された。
オーストリア新政権は、EUにおける反移民派筆頭のハンガリーのオルバン首相と、明らかに連携する動きをとっている。クルツ政権は、EUの難民受入割当にはハンガリー同様に応じない可能性が高い。
興味深いことに、オーストリアと国境を接するドイツ・バイエルン州のCSUは、クルツ新政権について、難民受入など、過去の誤りを正す政権であると「評価」している。ハンガリー、オーストリア、バイエルン州と、反移民の流れがドイツ中枢に向かっていることが分かる。
さらに、アメリカ。トランプ大統領は、昨年の12月11日の朝にNYで発生したテロ事件を受け、
「私が大統領選に立候補したときから言い続けている通り、アメリカは何よりもまず、不適切な審査によって多くの危険な人間をわれわれの国にアクセスさせた。手ぬるい移民制度を整えなければならない」
と、発言。1月8日、アメリカ政府はエルサルバドルにおける大地震発生を受け、同国出身の移民約20万人を対象に続けてきた在留資格「一時保護資格(TPS)」付与の打ち切りを発表した。一時保護資格と言いつつ、自然災害でアメリカに流入した南米からの移民は、その後、何十年も居住し続けるケースが少なくなく、トランプ大統領の言う「てぬるい移民制度」の一部を成していた。
先進国(※日本除く)が続々と「反移民」に舵を切っていく反対側で、いわゆる新興経済諸国では興味深い現象が起きている。'15年の数値では、日本は世界第4位の移民受入大国となっている。それでは第5位がどこかといえば、韓国だ。とはいえ、その移民受け入れ国である韓国から「日本への移民」が増え続けているのである。
'14年10月時点の日本国内の韓国人労働者数は3万7262人。'15年10月が4万1161人で、対前年比11%増。'16年10月が4万8121人。対前年比15%超の増加。なぜ、韓国からの移民(=外国人労働者)が増え続けているのだろうか。もちろん、韓国の若年層失業率が高止まりを続けているためだ。'16年の数値で、韓国の若年層失業率は10.6%と、2桁の状況が続いている。
そして、なぜ韓国の若者の職がないのかといえば、明らかに「移民受入」が影響を与えているわけだ。'16年の韓国への移民流入数は、約37万人。そして5万人近い韓国人(主に若者)が日本で働いている。移民の「玉突き」が起きていることが理解できるだろう。
日本も、このまま移民受入を続けると、低賃金に苦しむ国民が「外国に職を求める」という状況になると思われる。
韓国と同じ現象が、実は欧州でも起きている。具体的にはポーランドだ。人口約3800万人のポーランドが「人手不足」を理由にウクライナ移民を受け入れようとしている。しかも、100万人規模だ。日本でいうと334万人(!)の移民を受け入れるようなものである。ポーランドはイギリスやドイツに対しては「移民送り出し国」だ。'14年のデータによると在英ポーランド移民は、83万人を越えている。
無論、ポーランド移民はイギリス以外にも大勢いる。ベルリンにおけるポーランド移民の数は、トルコ移民に次いで第2位につけている。ポーランドから移民が西欧諸国に流れ出し、そのポーランドが「人手不足」となり、より「安く働く」ウクライナ人がポーランドに移民する。
上の図(※本誌参照)の通り、'15年時点のポーランドの移民人口比率は、実は欧州主要国の中で最低だ。もっとも今後、ウクライナ移民が増えていくと、やがてはポーランドもスイスやドイツのように「移民国家化」していくことになるのだろう。
人手不足を「生産性向上」の投資で補おうとせず、「外国の低賃金労働者」で解消する。結果、国民が貧困化し、より高い所得を求めて移民送り出し国になる。移民送り出し国になると、当然ながら「人手不足」となり、外国から移民がやってくる。
現在の世界は、生産性向上で成長する資本主義に背を向けた結果、国境を越えて「所得のフラット化」が起きていることが分かる。やがては、各国の所得の差がなくなり、まさに「フラットな世界」が実現することになるのだろう。
この動きに抗わなければならない。
みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。