−−夢葉先生、芸歴を紹介してください!
「伊藤一葉先生に入門したのは昭和50年、1975年かな。だからもう芸歴34年になる。あっという間だね」
−−マジシャンも前座期間なんてありますか?
「あったね。最初の半年間は通い弟子だった。先生がおれの様子を見てたんだね。で、家に入って修業しろと言われた。内弟子で1年半くらい修業した」
−−なんでマジシャンになろうと思ったんですか?
「楽そうだと思ったから(笑)。もちろん舞台にあこがれたのもあるけど、テレビで一葉先生を見て、これならおれもできるかなって思って。ポケットから鳩を出してなかったし(笑)」
−−一葉先生の家から独立してからの下積み時代は苦労しました?
「うーん、ありとあらゆるバイトをやったね。工場でもやしをフォークですくって袋詰めをしたり、現場仕事もやってきたね」
−−先生は今もそうですけど、お酒好きですよね。内弟子時代から飲んでいたんですか?
「(日本酒を飲みながら)そんなことなかったよ。あのころはまだ21くらいだったし、お酒の飲み方が分からなかった。マジシャン仲間ってあまり飲む人いないんだよね。僕くらいかな、事務所クビになったのが5〜6回、出入り禁止の店は3〜4軒。たいしたことないでしょ(笑)」
−−いや、たいしたことだと思うんですけど(苦笑)。飲んで舞台に上がったことは?
「めったにないよ。昔、渋谷でパフォーマンス劇場って店があってね、夕方5時始まりなんだけど、30分のステージを1日で3〜4回こなさないといけないんだ。この時は飲んでたね」
−−飲まなきゃやってられないと(笑)。今は家族を芸1本で食べさせているわけですね。
「マジックは落語家さんと違って、ネタを固めるまで30年はかかるんだ。笑わせたいのか、驚かせたいのか」
−−30年で芸風とキャラを完成させる。
「そう。で、完成させて売れたとするでしょ。売れた時にはネタがないんだよね(苦笑)。マジシャンはネタが20分しかないから。だからマリックさんはすごかったと思うよ」
−−今の若手マジシャンはどうですか?
「タレント志向なんだろうね。それはそれでいいことだと思うよ。僕はできなかっただけ。けど僕も入門した当時は、将来豪邸に住めると思ってたけどね。20年前に気がついて転職してれば、もっと稼げたのに(笑)」
−−今さら遅いと(笑)。ところで一葉先生はどんな師匠でした?
「4年しかお仕えしなかったんだけど、最高の師匠だったね。悪い所を見る前に亡くなっちゃった。あとで聞いたんだけど、酒乱だったらしい」
−−夢葉先生も受け継いだと(笑)。
「先生と一緒にもっと飲みたかったなあ。先生が酒飲んで暴れる姿を見たかったよ(笑)」
−−夢葉先生は、ラスベガスとかでの海外公演とか、そういう夢はありますか?
「ないよ、そんなの! だって英語分かんないんだもん(笑)」
−−マジックは言葉いらないと思うんですが(笑)。
「僕のステージはしゃべらないと芸にならないからね。マジシャンってさ、どうだ、すごいだろって、そういう自己顕示欲があると思うんだけど、僕は見ている客がプッと吹き出す、それも失笑、みたいなステージをやっていきたいね。笑ってもらえるイコール楽しんでもらえるだと思う」
<プロフィール>
いとう むよう
1975年 当時テレビ、ドラマ、コマーシャル等で活躍中の伊藤一葉氏に師事する。
1976年 夢葉の名をもらう。
1977年 6月デビュー。プロマジシャン団体日本奇術協会の正式メンバーとなる。
2006年 落語協会に入会。