『占領都市 TOKYO YEAR ZEROII』(デイヴィッド・ピース/酒井武志=訳/文藝春秋 2100円)
第2次大戦後、アメリカ占領下にあった日本で起きた犯罪で有名なものはいくつかあるが、帝銀事件はその代表格と言えよう。1948年1月26日、厚生省技官・医学博士と称する男が帝国銀行椎名町支店に突如現れ、赤痢の予防薬と偽り行員たちに毒物を飲ませた。12名が絶命する。
本書はこの実在の犯罪を素材にした小説だ。2007年に翻訳刊行された『TOKYO YEAR ZERO』に続くデイヴィッド・ピース《東京三部作》の二作目であるが、本書だけ読んでも十分迫力に圧倒される。リフレインを多用する、人物の心理描写と行動を目まぐるしいスピードで交互に書いて結合させる、といった前衛詩に近い文体が連続し、読者に襲いかかってくるのだ。通常の小説にあるストーリーテリングとは一線を画すので、読み始めの段階では混乱するかもしれないが、次第にその混乱が快感に変わっていく。
帝銀事件が有名なのは、いまだに真犯人が誰なのかすっきりしない印象を多くの人に与えているからだ。作者は全12章それぞれ異なる事件関係者を中心人物に据え、謎めいた雰囲気を倍加させ、そこから強烈な恐怖の匂いをかもし出す。元々ピースは暗黒小説の書き手としてデビューしたイギリス人作家で、日本在住。本作では戦後間もない混乱期の風俗ではなく、人々の心に漂っていた不安、負の精神世界へ肉迫している。(中辻理夫/文芸評論家)
◎気になる新刊
『オタクの息子に悩んでます』(岡田斗司夫/幻冬舎新書・966円)
朝日新聞週末別冊版beの人気連載『悩みのるつぼ』から、表題のような“難解”な相談に対する見事な「役立つ回答」を例示。人生相談と本気で格闘することで、問題解決のための分析力、思考力が身に付くことを提言する画期的な1冊。
◎ゆくりなき雑誌との出会いこそ幸せなり
今夏、NHK-BSで放送された『巨大戦艦 大和』をご覧になった読者も多いだろう。大和からの生存者の証言を中心とした3時間番組は、見応え満点のドキュメンタリーだった。
かように日本人の心を捉えて離さない戦艦大和。ディアゴスティーニから、その大和の全貌を模型作りを通じて伝える『週刊 戦艦大和を作る』(初刊号のみ390円/2号以降1190円)が発売された。
毎号付いている金属・木製パーツを組み立てると、全長105.2センチの大和が完成。沖縄戦に出撃した際の最終装備を再現したというから、まさに最後の勇姿を目の当たりにできる。
誌面では大和の全軌跡や、当時としては史上最大といわれた46センチ砲、速力を増すために考案されたという球状船首などのメカニズムも解説し、大和の実像を見事に掘り起こす。全90号の予定で、21号以降の購読者にはディスプレーケースのプレゼントもある。船舶模型ファンならずとも、一度は手掛けてみたい大作だ。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
※「ゆくりなき」…「思いがけない」の意