「涌井洋治会長(元大蔵省主計局長)と武田宗高副社長(元内閣府審議官=大蔵省出身)が6月22日の株主総会を機に揃って退任するためで、昭和60年の民営化以来、財務省OBが経営トップから姿を消すのは初めてのこと」(経済誌記者)
東日本大震災からの復興財源確保のため、政府は今年度予算にJTの発行済み株式の17%(時価約7800億円)の売却収入を見込んでいる。これを実施すれば、現在50%超を保有する政府=財務省の持株比率は重要案件に拒否権が行使できるギリギリの33%超まで低下する。従って財務省OBの一掃は、保有比率低下をにらんで同社の悲願である「完全民営化」に向け大きな一歩を踏み出したようにも見えるが、JTウオッチャーはこう喝破する。
「葉たばこ農家は、JTに義務づけられている全量買い取り制度の維持を強く望んでいる。ところが完全民営化=政府保有株の全部を売却すればJTは政府に首根っこを押さえられないから、全量買い取りを放棄し、品質の良い葉たばこだけを購入する。これでは全国の葉たばこ農家はたまりません」
ただ、涌井会長の退任には“新生JT”のアピール効果がある。大蔵省時代の涌井氏は「次の事務次官」といわれながらも主計局長だった'99年、脱税事件で摘発された石油卸商からシャガールの絵画を受け取ったことが問題になり、退官に追い込まれた経歴の持ち主。それから5年後、ホトボリが冷めるのを待ってJT会長に天下りしている。
「“スネ傷官僚”に高い退職金を払ってお引取り願った以上、いくら財務省でも直ちに後任の人材を送り込めません。しかし筆頭株主である以上、ワンクッション置いてからならば話は別です」(前出・ウオッチャー)
というのも、JTが社外常勤監査役に迎えている立石久雄氏は大蔵省OBで、国税局長だった経歴を持つ。経営陣はともかく、その意味で大蔵・財務省人脈はまだまだ健在なのである。