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政府の天敵 ヤマト運輸 メール便廃止のクールな魂胆

 ヤマト運輸は先ごろ、この3月末で廃止する『クロネコメール便』に代わって4月1日から法人向けにスタートする『クロネコDM便』の内容を発表した。内容物を“非信書”に限定したのが特色で、郵便の代替としての利用を防ぐため定価は設定せず、数量や届け先の地域ごとに仕分けるなど出荷形態に応じて利用者ごとに決める。上限はメール便の上限と同じ164円。カタログやパンフレッドなど販促物の送付を念頭に置いているため、個人は利用できず、個人向けには新たな代替策を近く発表する予定になっている。
 同社がメール便を始めたのは18年前の1997年。2004年には個人向けにも拡大した。厚さ1センチまでなら82円、2センチまでなら164円と、荷物を扱う同社の宅急便よりも安いことから、企業のダイレクトメールに加えて最近はネットオークションや通販の発送などにも利用されている。それだけ生活に密着した同社のメール便が、なぜ唐突に廃止されるのか。

 ヤマト運輸がメール便廃止を宣言したのは1月22日だった。山内雅喜社長は記者会見で「信書の定義や範囲が曖昧で、利用者がこれを知らずに容疑者になるリスクを排除するため」と、その狙いを強調した。
 信書は郵便法で「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、または事実を通知する文書」と定めている。極めてわかりにくいことから総務省は、ガイドラインで手紙やはがき、見積書、表彰状、招待状、各種証明書類などを「信書」と例示。新聞、雑誌、カタログ、パンフレッド、小切手類、クレジットカードなどを「非信書」としている。とはいえ、非信書であっても手紙らしい文面が添えてあれば信書の扱いとなり、郵便法違反として最高で懲役3年または300万円以下の罰金を受ける。
 背景にあるのは、信書の配達が日本郵政(旧郵政省)にしか認められていないことだ。ところが前述したように信書と非信書の線引きが曖昧で“ブラックボックス”化していることから、ヤマト運輸によると顧客が誤ってメール便で信書を送り、警察の取り調べや書類送検の対象になったケースが、この5年間で8件あったという。だからこそ、山内社長は今回のメール便廃止を「法令違反のリスクから顧客を守るため」と言い切ったのだ。

 ヤマト運輸といえば旧運輸省や旧郵政省と壮絶なバトルを演じ、「規制緩和の旗手」の異名をとった小倉昌男元社長(故人)の存在が有名である。そのため今回の決断にも「信書問題で政府に挑戦状をたたき付けた」と、小倉氏譲りのDNAに賛辞を送る向きが少なくない。実際、同社は総務省に対し、信書かどうか誰の目にも明らかになるよう外形基準を求める規制改革を提言したが、上場を控える日本郵政の“聖域”に踏み込んで利敵行為になりかねないことからテイよく一蹴されている。
 一方で冷ややかな見方もある。宿敵である日本郵政の『ゆうメール』との競争激化から、メール便の取扱量が'11年3月期をピークに年々落ち込み、今や連結売上高の9.2%まで落ち込んでいる。関係者によると発送者に信書が入っていないことを確認して署名してもらう予防策が「逆に敬遠された側面が否めない」ばかりか、郵政が『ゆうパケット』を投入して切り崩しを図ったことも大きい。そこで宣伝効果を狙ってファイティング・ポーズを取った、との見立てがくすぶっているのだ。
 「メール便を廃止し、新たにDM便を投入すれば新聞やテレビが群がり、タダで報道する。しかも規制緩和の旗手として格好よく政府=郵政と対峙する。そのアピール効果は計り知れません。市場では『一発逆転を狙ってPRマンを買って出たのではないか』と真顔で囁く向きさえいる。それだけメール便廃止と代替戦略はインパクトが大きい。4月で持ち株会社の社長に転じる山内社長はさぞニンマリしているはずです」(大手証券マン)

 まだ同社は4月1日から始まる個人向けの代替サービスの詳細を発表していない。しかし大筋は決まっており、宅急便の最小サイズよりも小さい“ミニ宅急便”は1個400円台から。既存の宅急便に比べれば安いが、メール便の上限(164円)を大きく上回る。他に現在のメール便に近く、CDやDVDなどの小さな荷物用の新企画もあるが、料金は既存のメール便よりも高くなる見通し。要するに利用者の刑事罰回避を最大の売りにしたメール便廃止は、新手を駆使した値上げ戦略に他ならないのである。
 ヤマトのメール便事業は売上高が約1200億円。世間をどうカムフラージュして“打ち出の小づち”に大化けさせるか。山内社長の腕の見せどころだが、本音が透けて見えるだけに、さてどうなることか。

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