『お菓子の家』(カーリン・イェルハルドセン/木村由利子=訳 創元推理文庫 1050円)
過去を振り返らない。常に心掛けていたい、潔い態度である。しかし、実際にはなかなかできない。なぜなら過去は出来事として終わっても、人の記憶の中ではどんどん蓄積されるものだからだ。
本書『お菓子の家』はまさに過去と現在との密接な関係をテーマにしたミステリーである。物語は1968年、スウェーデンのカトリーネホルムという小さな町から始まる。幼稚園での残酷ないじめのシーンが描かれるのだ。ところが少しページが進むと時は2006年へ一気に飛ぶ。舞台はストックホルム。入院先から自宅へ戻った老婦人イングリッドは驚愕する。見知らぬ男の血まみれの死体が床に横たわっていたのだ。
コニー・ショーベリ警視と部下たちは犯人解明のため行動を起こす。しかし事件は一回では終わらなかった。同一人物による連続殺人が始まったのだろうか…。
全体は大きく二つのパートによって構成されている。ショーベリ・チームの捜査シーンと殺人者の日記だ。この日記がおぞましい。冒頭に描かれたいじめが約40年を経て、憎悪の固まりとしかいえない人間を生み出したのだ。ただし並行してショーベリと家族の触れ合いも微笑ましい筆致で描かれていく。おそらく作者は子供時代のダークな体験と温かな体験を比較しながら、過去というものがいかに人生において重要なものか探っているのだ。
(中辻理夫/文芸評論家)
◎気になる新刊
『超ファミコン』(多根清史、阿部広樹、箭本進一/太田出版・1260円)
ファミコン生誕30周年を記念して懐かしの名作・迷作・怪作、100本を徹底レビュー! 『スーパーマリオ』『ドラクエ』『ポートピア』から『たけしの挑戦状』『いっき』『スペランカー』まで、歴史的名機ファミコンのすべてがここに!
◎ゆくりなき雑誌との出会いこそ幸せなり
『月刊本当にあった女の人生ドラマ』(ぶんか社/630円)は、オール読み切り漫画だけを掲載したコミック誌。「腐りかけ結婚生活」と題された通り、読者投稿をもとに破綻した夫婦・家庭の物語ばかりを取り上げている。自営業のチャラ男の夫が店の経営に失敗、舅・姑の介護問題、家庭で孤立して物置に引きこもる主婦など、悲惨な話が盛りだくさんだ。
どの漫画もワイドショーやメロドラマが好みそうな「家庭崩壊」がテーマ。しかも、いっそ離婚してしまえばよさそうなものの、別れたいのに別れられない微妙な主婦心理も丁寧に描かれていて、まさに「結婚は地獄」をリアルに綴っている。
異色だが、こんな記事も。
「芸能界離婚のウソホント肉食離婚の真相は!?」…という元モー娘。の矢口真里をネタにした企画。読者は同じ悩みを抱える人妻と、他人の不幸を興味本位でのぞきたがる主婦だろうが、男が読んでも実に面白い。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
※「ゆくりなき」…「思いがけない」の意