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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第371回 財政破綻論者というウイルス

 2020年1〜3月期の経済成長率が発表になった。実質GDPは対前期比▲0.9%、年率換算▲3.4%と、予想通り「2四半期連続」の大幅なマイナスに終わった。注意しなければならないのは、
1.日本経済は’19年10月1日の消費税増税により、’19年10〜12月期の経済成長率が対前期比▲1.8%(年率換算▲7.1%)と大きく落ち込んでいた。

2.’20年1〜3月期の成長率とは、大きくGDPが減った前四半期期との比較。

3.日本経済の落ち込みは、’20年4月以降に本格化する。

 の3点である。

 日本経済は’19年10〜12月期に「すでにGDPが減っていた」ために、コロナ危機が始まったとはいえ、’20年の1〜3月期の対前期比の落ち込み幅は欧米と比較すると小さくなる。’20年1〜3月期は、特に欧州が悲惨な状況に陥った。ユーロ圏全体では対前期比▲3.8%(同▲14.4%)、最悪だったフランスが対前期比▲5.8%(同▲221.3%)。また、アメリカは対前期比▲1.22%(同▲4.8%)であった。

 欧米諸国と比較すると、日本のGDPの落ち込みは「小さく見える」が、わが国の経済成長率がマイナスに突入したのは’19年10〜12月期からという事実を忘れてはならない(欧米諸国の’19年10〜12月期は普通にプラス成長だった)。

 日本は2四半期連続の経済成長率のマイナス。つまりは、テクニカルに「リセッション(景気後退)」に突入した。安倍政権は、昨年10月の消費税増税による景気後退をなかったこととし、すべての責任を新型コロナウイルス感染症のパンデミックに押し付けるだろう。さらには、
「すでにコロナ禍はピークをすぎた。自粛緩和だ」
 ということになると、国民を救う経済対策、財政拡大政策は採られず、後にはただ「崩壊した国民経済」の中で苦しむ日本国民のみが取り残されるという構図になる。

 第二次世界恐慌は、むしろこれからが本番だ。’20年4〜6月期は1〜3月期以上に悪化する。つまりは3四半期連続のマイナス成長が確定している。第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストの試算によると、4月7日の緊急事態宣言発令以降の2カ月間だけで、GDPが45兆円減った可能性があるという。

 今後の安倍政権は、
「日本は(消費税増税ではなく)コロナ危機により、景気後退に突入した」
「コロナ危機による’20年1〜3月期の落ち込みは、日本は欧米諸国より小さい」
「コロナ危機はピークを越えたので、自粛は緩和するから、財政拡大はやらない」
 と、これまで以上に国民殺しの路線を走っていくことになるだろう。

 何しろ、安倍政権は新型コロナウイルス諮問委員会に、竹森俊平(慶大教授)、小林慶一郎(東京財団政策研究所研究主幹)ら財政破綻論者を「経済専門家」として突っ込んだ。経済対策の新規国債発行を、将来的な「コロナ増税」「消費税再増税」で取り戻す気が満々に見える。

 ちなみに、小林は5月19日に配信されたサンデー毎日の記事〈日本政府の莫大な借金こそ「失われた30年」の真犯人だ〉において、
〈日本の政府債務の持続性を回復するためには、政治的には実現困難なレベルの歳出削減と増税が必要となる〉
〈日本の公的債務(政府と地方自治体の債務の合計)が国内総生産(GDP)の約240%となっていて、先進国で最悪の水準である〉

 など、相も変わらぬ「財政破綻論というウイルス」をまき散らしていた。小林の言う「公的債務」は、単なる「過去の政府の貨幣発行の履歴(あるいは残高)」にすぎないが、企業や家計の債務と故意に混同させ、国民の危機感を煽る陳腐なレトリックである。

 過去に日本政府が発行した貨幣の履歴(小林の言う公的債務)とGDPを比較すると、数字が相対的に大きくなるのは、単に日本がGDP成長していないためだ。日本政府の貨幣発行ペース(小林の言う公的債務増加ペース)は、別に速くない。’01年以降だと、アメリカの半分程度のスピードにすぎない。

 そして、日本のGDPが成長しないのは、まさに小林のような「無知」な連中により、財政破綻論が煽られ、政府の支出を増やせないためなのだ。

 GDPとは「民間消費+民間投資+政府支出+純輸出」である。当たり前だが、政府支出を増やせばGDPは成長する。さらに、拡大する政府支出という「需要」を埋めるべく民間の投資が増えるため、GDPは政府の支出分以上に成長することになる。

 その「成長の核」である政府支出を、小林のような連中に妨害され、わが国はGDPが増えず、結果的に「公的債務対GDP比率」が上昇したのだ。

 右図の通り、日本は’01年以降、政府支出を伸ばさず、結果的にGDPも増えなかった。逆に、諸外国は政府支出を伸ばし、ほぼ比例する形でGDPを増やしていった。

 これが、データが証明する事実なのである。

 事実やデータを無視し、妄想の財政破綻論をまき散らす小林のような連中を駆除しなければならない。彼らは、日本にとりついた「財政破綻論者というウイルス」であり、率直に書くが、COVID-19よりも厄介であり、すでに多くの日本国民を殺している。1997年の消費税増税、公共投資削減などの緊縮財政開始により、日本の自殺者数は毎年1万人以上も増加する悲惨な事態になった。同年に橋本政権(当時)が緊縮財政を強行したのは、すでに「財政破綻論者というウイルス」に日本国が侵されていたためなのだ。

 今回の新型コロナウイルス感染症パンデミックや第二次世界恐慌をきっかけに、財政破綻論者というウイルスを根絶し、正しい財政政策を推進する「普通の国」に戻れるか。すべては「正しい情報」というワクチンが国民に広がるか否かにかかっている。

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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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