これを受け、多くのスポーツジムが臨時休業に踏み切った。政府の要請から1カ月が経って再開する施設も増えているが、消毒用アルコール設置や検温などのコロナ対策、さらには休退会申し込みの受付対応に追われている。
そんなフィットネス業界だが、インターネット動画配信を活用した“デジタルジム”の利用者が伸びているという。
2018年にスタートした日本最大級のオンラインフィットネス動画サービス「LEAN BODY(リーンボディ)」の中山善貴社長がこう明かす。
「今年2月と比較すると、(3月は)会員数が3倍以上に増えて驚いています。今も、その勢いは止まりません」
「LEAN BODY」のフィットネス動画は筋トレ、ヨガ、ストレッチ、マッサージなど、400ほどのプログラムがある。どの部位を鍛えたいかで利用者がそれぞれ自由にコースを選べ、スマートフォン、パソコンなど、インターネットにつながるデバイスがあれば、テレビを見ながら自宅で手軽に行えるのが受けているという。
中山社長がオンラインフィットネスを創業したのは、「幼児を抱えながらも健康や美容のために運動をしたい、しかし、時間的都合でジムには通えないという母親たちのニーズが高いと判断したからだ」と語る。そこに新型コロナ騒動での“巣ごもり消費”が追い風になった格好だ。
また、中山社長は今回の新型コロナウイルスの影響で、「学校が休校になっている子どもたちが外出もままならない中で、親と一緒に利用している例が増えているのでは」と推測する。
利用者が急増しているとはいえ、「LEAN BODY」のどこに消費者は魅力を感じたのだろうか。中山社長がこう明かす。
「うちのフィットネスが選ばれている最大の理由は、入会金もなく月額980円からという低価格で『いつでもどこでも手軽にフィットネス』というのが支持されているのだと思います。それとインストラクターに業界トップクラスの人たちをズラリと揃えられた点も人気の秘密です」
オンラインサービスの利用者が増えているのは、「LEAN BODY」だけではない。
同業他社でも、平均して3割の会員増加現象が続出している。というのも、新型コロナウイルス感染リスクの高い三要素といわれる、密閉、密集、密接の「三密」を避けられるため、オンラインフィットネス全体に追い風が吹いているのだ。
「そもそも日本のフィットネス市場は’12年頃から、ここ8年ほどは右肩上がりなのです。その背景は個々人の健康志向の高まりに加え、市場の多様化が進んでおり、台頭する新興企業と迎え撃つ老舗クラブとの競争が相乗効果となって市場拡大が続いているのです」(フィットネス企業関係者)
日本生産性本部が’19年8月に発表した「2019レジャー白書」によると、’18年の日本のフィットネスクラブ市場は約4800億円で対前年比4.1%も伸び、過去最高を更新した。
その日本のフィットネス企業は、大手では「コナミスポーツクラブ」、「セントラルスポーツ」、「ルネサンス」などがフィットネスジムを店舗展開している。そこに新興勢力としてパーソナルジムメインの「RIZAP」や、女性限定トレーニングで急成長を遂げる「カーブス」が台頭、業界全体に刺激を与え、市場拡大につながっている。
フィットネス市場は今後どう動いていくのか。
「健康調査などで実績のある非営利団体『GWI』によれば、アメリカのフィットネス業界の規模は’17年度で約3兆3000億円、会員数は約6090万人。日本は約5000億円市場で、会員は約500万人です。アメリカとの人口比からすると本来の日本市場は1兆5000億円で、まだ1兆円の需要が眠っていると考えられます」(経営コンサルタント)
また、アメリカではコロナ騒動が起きる以前から、「リアルジムから“デジタルジム”への移行が進んでいました。今は両方併用する人が増えている」(大手スポーツジム関係者)という。
「日本でもアメリカの流れを受け、コロナ騒動が終息してもオンラインフィットネスが、市場全体をけん引することは十分あり得ます」(同)
まだ1兆円の需要が眠っている日本のフィットネス業界では、今後、デジタルジムの躍進が続きそうだ。