そんなベタな展開の映画ではありますが、面白く見られるのは、配役の妙によるところが大きいかと。
余生をゆっくりすごすためにシニアタウンに越してきた主人公マーサには、名女優にして往年のファッション・アイコン、ダイアン・キートン。そのクールな彼女とコンビを組むのが、ちょっと派手でおせっかい焼き、まるで大阪のおばちゃんのようなお隣さんシェリル。その対比が面白い。
最初は誰ともつるまず、静かに暮らすつもりだったマーサですが、人の心に踏み込んでくるタイプのシェリルに、つい「昔はチア・リーダーになりたかった」と語ってしまいます。「夢を叶えるのは今からでも遅くない!」と焚き付けられて、シニアのチア・リーディングクラブを結成する羽目に。
しかし、そんな展開以上に自分が釘付けになったのは、まるでアメリカ版『やすらぎの郷』のように、シニアたちがイキイキとすごしている高齢者居住区。広大な敷地にはゴルフコースやプール、ボウリング場などの設備が揃い、住宅は芝生の庭つき一戸建て。住民たちの間では100以上のクラブ活動が行われています。
フリーマーケットで家財一式を売り払うくらいで入居できそうなので、富裕層だけが対象というのではなさそうです。アメリカには実際にこんなシニア・タウンがあるのかどうかは知りませんが、実に羨ましい。日本の高齢者施設もよくお世話はしてくれますが、どうしても狭い部屋に閉じ込められて生活することになり、進んで入りたいとは思えませんよね。
自分がかかりつけ医にしているクリニックには、デイケア施設が併設されていて、扉の向こうから折り紙や塗り絵などのアクティビティに興じているお年寄りたちの声が聞こえてきます。
果たして自分は将来、この輪の中に入っていけるだろうかと考え込んでしまう。「今さらこんなこと、できっかよ」とうそぶいている自分しか思い浮かびません。
この映画にも、嬉々としてクラプ活動に励むマーサたちを、秩序を乱すのはまかりならんと取り締まる保安官や職員が出てきますが、どちらかというと自分はそっち側。絶対、嫌われますよね。ストーリーには既視感がありますが、「人生100時代の生き方シミュレーション」とすると、面白みが増すかも、です。
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■チア・アップ!
監督/ザラ・ヘイズ 出演/ダイアン・キートン、ジャッキー・ウィーヴァー、パム・グリア、セリア・ウェストン、リー・パールマン 配給会社/クロックワークス、アルバトロス・フィルム 4月10日(金)新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー。
■余生をゆっくりすごすため、シニアタウンに引っ越してきたマーサ(ダイアン・キートン)。隣人のシェリルに、昔、チア・リーダーになりたかったことを話したところ、「夢を叶えるのは今からでも遅くない」とおだてられ、チア・リーディング・クラブを結成することになる。集まったのは未経験どころか、腕も足も上がらない平均年齢72歳の8人。バカにされながらも練習に打ち込み、チア・リーディング大会に出場を決めるが…。
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漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。
『情報ライブ ミヤネ屋』(日本テレビ系)レギュラー出演中