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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第362回 第2次世界恐慌

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提供:週刊実話

 東京五輪の延期が決まった。安倍晋三総理大臣は国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長と電話で会談し、東京五輪を「1年程度延期し、遅くとも2021年夏までに開催すること。年内開催は不可能」との認識で一致したのである。

 とはいえ、現実問題として「五輪延期」など可能なのだろうか。諸会場の予約は、来年までスケジュールが決まっており、今からの変更は極めて困難だ。また、すでに販売されてしまった選手村のマンションの購入者の入居にも影響を与えることになる。

 あるいは、ボランティアやスタッフの確保。数十万人が「五輪を終えた翌年」として’21年を考えていたわけだが、そこでいきなり「来年も」などとやって、十分な人員の確保が可能なのか。

 東京五輪は、最終的には「中止」ということにならざるを得ないと予想している。新型コロナウイルス感染症のパンデミックを受け、すでに顧客激減で青息吐息になっている宿泊業にとって、東京五輪延期は致命的な打撃になる。
 第362回のタイトルは「令和恐慌」だったが、事は日本国内に収まらず、世界中が「GDP(国内総生産)激減」という危機に直面している。第2次世界恐慌が始まったと認識するべきであろう。

 4月以降、所得喪失により「飢え」に直面する日本人が激増することになる。もちろん、第2次世界恐慌であるため、世界中がそうなる。

 アメリカのセントルイス地区連銀のブラード総裁は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックを受け、アメリカの失業率が30%と、大恐慌時を上回るほどに悪化し、4〜6月期のGDPが、通常の四半期と比べて半減してもおかしくないとの見通しを示した。また、ドイツのIFO研究所は、’20年のドイツのGDPが最大で7290億ユーロ(約87兆円)縮小する可能性があると指摘。つまりは、最悪、1年間でドイツのGDPの20%が吹き飛ぶ計算だ。

 何しろ、新型コロナウイルス感染症パンデミックの影響で、生産活動が軒並みストップしているため、欧州諸国が(欧州だけではないが)ドイツ並みにGDPが消滅することは確実だ。

 恐慌のメカニズムについて簡単に解説しておこう。

 GDP三面等価の原則により、
「生産の総計=支出(需要)の総計=所得の総計」
 となる。GDP三面等価の原則は、100%成立する。

 つまりは、GDPの20%喪失は、国民の所得が20%消えることとイコールなのだ。給料が8割減った人は、当たり前の話として支出を減らす。すると、他の誰かの所得が激減し……と、悪循環がひたすら続き、GDPが「数割」減るというカタストロフィーに至るのだ。

 無論、その過程において失業者、倒産・廃業企業は激増。失業者は消費が困難になり、全体の消費が減ることで仕事が生まれず、生産されても、買われない。いや、人々が買えない。
「食べ物は大量に余っているにも関わらず、国民が飢える」

 という異様な状況が現出することになる(実際、1929年に始まった世界大恐慌期には、そうなった)。

 無論、恐慌の進展とともに物価は大きく下落するが、それ以上に「販売量=生産量」が激減するため、所得は実質で落ちていく。

 最終的には、貧困化し、飢えに直面し、極度のルサンチマンを蓄積した大衆が「生き残り」のために動き出し、社会が壊れる。ナショナリズム(国民の連帯意識)が破壊された結果、民主制は維持不可能になる。

 恐慌の悪夢を回避するためには、GDPの構造を理解しなければならない。

 GDPを支出(需要)面で見ると、
「GDP=民間支出+政府支出+純輸出」
 となる(細かく書くと、民間支出=民間最終消費支出+民間企業設備+民間住宅。政府支出=政府最終消費支出+公的固定資本形成。在庫変動は省略)。

 下図が2018年度の日本のGDPだ。民間、政府、外国(※純輸出)の何らかが支出を増やさない限り、「支出の合計」であるGDPは増えない。

 例えば、ドイツのGDPが20%失われるとして、政府支出がそれ以上に増えれば、国民経済は救われる。問題は、恐慌期に喪失に直面するGDPの規模だ。ドイツが87兆円の需要消滅をカバーするためには、少なくともドイツ政府が同じ規模の「財政赤字」を決断する必要がある。つまりは、財政赤字対GDP比20%。

 ドイツに限らず、主要国の政府は財政均衡主義が主流だ。財政均衡を憲法に書くほどの頑迷なドイツが、いきなり対GDP比20%の財政赤字を許容できるのだろうか。メルケル政権は今回の危機を受け、1560億ユーロの国債発行(=財政赤字)を表明しているが、対GDP比では4.5%にすぎない。

 しかも、ドイツを始めユーロ加盟国は金融主権をECBに委譲している。財政拡大のために国債を発行し、金利が上昇したとして、中央銀行による主体的な国債買取はできない。

 日本、アメリカ、イギリスなどは、財政政策と金融政策により対GDP比数十%の財政赤字の拡大が可能だ。むしろ拡大しなければならない。何しろ、変動相場制の独自通貨国にとって、財政赤字拡大とは「政府貨幣発行」にすぎないのである。

 問題は「国の借金で破綻する」と、間違った貨幣観を頭に刷り込まれた国民が、財政赤字拡大に怯え、「民主制」により政府の財政拡大を妨害しようとすることだ。あるいは、貨幣観を間違えた愚かな政治家たちが、財政均衡主義から逃れられず、十分な財政拡大の決断ができない。

 日本の場合、双方が影響し合い、恐慌を食い止められない可能性が濃厚である。

 恐慌という国家の危機において、国民を餓死から、あるいは自殺から救うことができるのは、政府の十分な貨幣発行=財政赤字拡大だけなのだ。この事実を、我々は早急に共有しなければならない。

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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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