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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第363回 緊縮財政との戦いの天王山

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提供:週刊実話

 筆者は、本連載の「第1回」から、嘘の財政破綻論(いわゆる「国の借金」問題)、デフレを継続させる緊縮財政との戦いを続けてきた。ちなみに、本連載第1回のタイトルは「デフレと情報の歪み」、第2回が「国の借金というプロパガンダ」、第3回が「国民一人当たり借金というウソ」であった。

 先日、レバノン政府がデフォルト(債務不履行)に陥った。つまりは、財政破綻したわけだが、レバノン政府が返済できなくなった負債は「外貨建て(ドル建て)」だ。しかも、レバノンは通貨レバノン・ポンドの対ドル為替レートを「1ドル=約1500レバノン・ポンド」とする固定為替相場制を採用していた。

 誤解している人が少なくないのだが、通貨の固定為替相場制は、例えば、日本政府が、
「本日より1ドル=100円とする」
 と、宣言したら実現するわけではない。

 考えてみれば当たり前で、例えば、日本企業がアメリカに製品を輸出し、100億ドルの支払いを受けたとしよう。逆に、アメリカ側は日本に何も輸出しなかった。つまりは、アメリカの対日貿易赤字が100億ドルだ。

 アメリカで「ドル」を稼いだ日本企業は、当然ながら100億ドルを日本円に両替しようとする。何しろ、日本国内ではドルが使えないため、100億「ドル」を持っていたところで、従業員の給料すら払えない。日本企業が100億ドルを日本円に両替しようとすると、為替市場で「円高、ドル安」の圧力がかかる。

 日本政府が「1ドル=100円」の固定為替相場制を採用した場合、為替市場における円高圧力を抑制するため、日本円を調達し「日本円→ドル」の両替をする必要がある。さもなければ、1ドル=100円の為替レートは維持できない。

 逆に、円安圧力がかかった際には、日本政府は手持ちの外貨準備(主にドル資産)を取り崩し、為替相場で「ドル→日本円」の両替を増やさなければならない。いわゆる、通貨防衛である。通貨防衛は、政府の外貨準備が尽きた時点で「ジ・エンド」となる。そうなると、最終的に政府は固定為替相場制を放棄し、変動相場制に移行せざるを得ない。すると、当然の結果として自国通貨の対外貨の為替レートは暴落することになる。

 その時点で、政府が「外貨建て対外債務」を抱えていると、デフォルトとなる。何しろ、政府は自国通貨を発行することはできるが、外貨は不可能なのである。

 レバノン政府は、対ドル固定為替相場制を維持しようとしていたわけだが、3月9日に、
「我が国の外貨準備は極めて重大で危険なレベルになり、政府は3月の外貨建て国債支払いを保留せざるを得なくなった」(ディアブ首相)
 と、外貨建て国債のデフォルトに踏み切ったのだ。

 外貨建て国債がある国、あるいは自国通貨建て国債しか発行していなくても、対ドル固定為替相場制を採用している国などは、普通にデフォルトする。とはいえ、わが国の場合、変動為替相場制で、かつ国債は100%日本円建てだ。変動相場制の独自通貨国が、自国通貨建て国債の「財政破綻」になる可能性は「ゼロ」なのだ。それにも関わらず、わが国では1995年以降、嘘の「財政破綻論」が蔓延し、デフレが継続。国民の貧困化と「衰退国化」が続いてきた。

 財務省は、外国に対しては、
〈日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない〉(外国格付け会社宛意見書要旨)
〈日本は変動相場制の下で、強固な対外バランスもあって国内金融政策の自由度ははるかに大きい。更に、ハイパー・インフレの懸念はゼロに等しい〉(ムーディーズ宛返信大要)

 と、日本が財政破綻(デフォルト)や、ハイパー・インフレーション(年間インフレ率1万3000%)になる可能性を「公式」に否定している。それにも関わらず、国内では財政破綻論をまき散らし、消費増税や社会保障負担引き上げ、公共投資や防衛費、科学技術予算や教育費、地方交付税や社会保障支出などを軒並み削減、抑制する緊縮財政を続けてきた。

 とはいえ、2019年10月1日の消費税増税、’20年1月以降の武漢発症の新型コロナウイルス感染症、疫病襲来という「ショック」を受け、さすがに緊縮財政路線に疑問を持つ国民、政治家が増えてきた。当然である。’19年10〜12月期の経済成長率は年率▲7.1%と悲惨な結果になり、’20年1〜3月期はさらに落ち込むことが確実なのだ。

 安倍政権の無責任な自粛要請、小中高全国一律休校により、日本国民の外出は激減してしまった。結果、飲食業、宿泊業、タクシー業などが、壊滅的な打撃を受けている。何しろ、売上(利益ではない)が対前年比8割減、という状況も珍しくなくなったのである。

 国民民主党や、共産党などは、早期から消費税減税を含む大規模経済対策を求めていたが、ついに自民党「内」からも「令和恐慌」を防ぐための大規模経済対策が提言されるに至った。

 自民党の安藤裕衆院議員ら若手有志42名は、3月11日、西村康稔経済再生担当大臣と面会。消費税率0%を含む大規模経済対策を提言した。具体的には、
「30兆円規模の補正予算を編成し、財源には躊躇なく国債を発行してそれに充てること」
「被雇用者に対しては十分な休業補償をするとともに、事業者、特に中小企業及び小規模事業者(個人事業主を含む)に対しては、失われた粗利を100%補償する施策を講ずること(特別融資だけでは不十分)」
「消費税は当分の間、軽減税率を0%とし、全品目軽減税率を適用すること(消費税法の停止でも可)。なお、消費税の減税のタイミングとして6月を目指し、各種調整を速やかに行うこと」
 などになる。

 この種の大規模経済対策を実施するためには、当然ながらPB(プライマリーバランス)黒字化目標の破棄、凍結が大前提になる。日本政府は、果たして「国民を救う」ためにPB目標破棄を決断できるのか。あるいは、日本国民は政府にPB目標を破棄させることができるのか。

 ここが、天王山である。

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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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