文政2(1819)年に肥前国に出現してコレラの流行を予言した妖怪で、頭に二本の角を生やした女性の顔、全長2丈(約6メートル)の魚のような姿をしているというものである。同様の「女性の顔をした巨大な予言する妖怪」として肥前平戸に出た龍神の使者と名乗る「姫魚」もおり、こちらも体長1丈5、6尺(4.5~4.8メートル)だったという。ちなみに神社姫の体が蛇や龍に似た長いものであるのに対し、姫魚はより魚に近い太めの形となっている。
神社姫や姫魚は噂の伝播によって生まれたものではないか、とされているが、一方で神社姫が実在していたのではないか、と思えるような奇妙な記録が「今昔物語集」の中に存在している。
「今昔物語集」卷三十一 本朝第十七によれば、藤原信通朝臣という人物が常陸の守の任にあったときのこと。嵐の翌朝、現在の茨城県東西の浜に巨大な人間の遺体が漂着した。その身長は15メートルもあり、上半身を出して砂浜に埋まっている。首、右手、左足がなく、身なりや肌から判断するに女と見受けられたそうだ。既に腐敗が進行していたようで、死体から漂う腐った異臭は周囲に多大な被害を与えたそうだ。神社姫や姫魚を超える大きさであり、女性という点や海から漂着したものだという点が興味深い。
巨大な正体不明の生物の死体が漂着するケースといえば、謎の巨大な肉塊が漂着する「グロブスター」を思い浮かべる人もいるだろう。さすがに巨大な人間の死体がそのまま漂着したとは考えにくいため、今回も何かしらの生物の死体が漂着し、その様子が人間のものに見えたと考えるのが良いのではないだろうか。
ちなみにグロブスターは海で死亡したクジラなどの海洋生物の死体が腐って一部が漂着したものとされている。尾びれが切れていれば尻尾が足に見えたり、鰭の一部が腕に見える外見であったならば、巨人に見えても不思議はない。またグロブスターの全体を覆う繊維質の組織は女性の長い髪に見えたかもしれない。
残念ながら同様の報告はないため、千年も昔の海に漂着したこの巨大女の正体を突き止めるのは不可能に近いだろう。だが、実に興味深い話ではある。
(山口敏太郎)