武漢市の海鮮市場で販売されていた食用のコウモリやアナグマ、ネズミなどを喫食したことでヒトに感染したという見方が強いが、これもあくまで推測の域を出ないのだ。
そんな中、1月24日付の米ワシントン・タイムズが、中国の“生物兵器説”を掲載し、世界的なパニックを引き起こしそうになった。
「同紙は、イスラエルの元軍関係者の証言に基づき、中国の国立研究機関である『武漢病毒研究所』から生物兵器用のウイルスが漏出したのではないか、と報じたのです。同研究所は、致命的レベルのウイルスを扱うバイオセーフティーレベル4の研究機関。エボラ出血熱やニパウイルス感染症など、致死率が極めて高い病原体も備蓄しています。しかも、中国人民解放軍の“生物戦争計画”にも関与しているとされるため、一気にこの情報が広まったのです」(全国紙記者)
しかし、細菌学に詳しい医師は“生物兵器説”を一蹴する。
「生物兵器の研究では、事故に備えてワクチンも同時に用意する。仮に、ワクチンのない生物兵器を実戦使用した場合、自軍の兵士も巻き添えを食いますからね。今回の新型コロナウイルスでは、まだワクチンが開発されておらず、重篤患者が増える要因となっている。だから、生物兵器が原因ということはあり得ない」
ヤリ玉に挙げられた「武漢病毒研究所」は、2000年代前半に中国で爆発的に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)の対処でも実績があるというから、さすがに同研究所が発生源とする説には無理がある。
特派員記者も困惑気味だ。
「武漢市の病院では、対応に追われた医療関係者がバタバタ倒れて人手不足。残った医師や看護師は、オムツをつけて処置に追われているほどで、過労から錯乱状態に陥り、泣き叫ぶ医療関係者の動画なども拡散しています。こうした状況が、生物兵器説などの風評に一定の信ぴょう性を与えているのかもしれません」
今回の報道はデマだったとしても、今後のことは分からない。
「本来、危険性の高いバイオハザード・マークのついた医療廃棄物は、専門の業者が回収し、特別な焼却炉で高温焼却され、灰の扱いまで決められています。ところが、こうした業者にヤクザが紛れ込み、高温焼却の燃料代をケチるために、山に埋めている実態を日本で取材したことがあります。そのときに見た、血だらけの注射針やガーゼが雨に打たれている光景を今でも忘れることができません。廃棄物にマフィアが絡むのは世界の常。まして中国となると…考えただけでゾッとしますね」(同)
実際、1979年には、旧ソ連時代の生物兵器研究所から炭疽菌が漏出。研究の事実が外部に知れることを恐れた旧ソ連政府が事態を放置し、周辺住民数十人が死亡した例もある。
“生物兵器説”を批判するのは結構だが、こうした歴史も忘れてはならない。