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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第354回 安倍総理にデフレ脱却の意志はない

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提供:週刊実話

 2012年12月26日、安倍内閣総理大臣は政権奪還直後の就任記者会見で、以下の通り語った。

「デフレ脱却が我々の政権に課せられた使命であります。そのデフレを脱却していく上において、まずデフレギャップを埋めていくことが重要であります」

 7年後の’19年11月20日、在職日数が第1次内閣を含めた通算で2887日に達し、憲政史上歴代1位となったことを受け、総理は記者会見で、「デフレからの脱却、少子高齢化への挑戦、戦後外交の総決算、その先には憲法改正もある。チャレンジャーの気持ちで令和の新しい時代をつくる」と、表明。

 ’12年は分かるが、7年後の’19年に「デフレからの脱却」と言っているわけだから、これを異常と思わない方が異常だろう。7年間、同じ目標を掲げる、つまりは「達成できていない」ことを宣言するなど、自らが「無能である」と認めているか、あるいは初めからやる気がないかのいずれかだ。正解は「総理にデフレ脱却の意志はない」だろう。もっとも、さすがに国民がこれだけデフレ経済に苦しみ、貧困化が続いている状況で、
「デフレ脱却は目指しません」

 とは言えないため「口」を使う。口先で「デフレ脱却」を繰り返し、実際にはデフレ脱却策は打たない。

 デフレ脱却のためには、まさに総理の’12年の発言の通り「デフレギャップを埋める」必要がある。デフレギャップとは、国民経済の「供給能力>総需要」の差だ。分かりやすく書くと「わが社は1日に100生産できるが、90しか買われない」状況だ。

 総需要とは、要するに名目GDPである(定義上、そうなる)。名目GDPは、支出面で見ると「民間の支出」「政府の支出」「純輸出(=輸出-輸入)」の合計になる。デフレギャップを埋めるためには、誰かが支出(消費と投資)を拡大する必要があるのだ。

 それにも関わらず、安倍政権は国民の支出を減らす消費税増税を「2度」も断行。さらには、政府自らも緊縮路線を維持し、支出を増やそうとしない。

「安倍政権は予算を拡大している。放漫財政では?」と、マスコミの嘘情報に騙されている読者は少なくないだろうが、とんでもない。政府が緊縮財政ではなく、財政拡大路線というならば、国債発行が増えなければならない。国債発行が増えれば、政府の支出も拡大し、我々の資産(預金)も増える。ところが、安倍政権は’13年度から、新規国債発行を抑制しているのだ。

 安倍政権は’13年度以降、着実に新規国債発行を減額している。’20年度についても、新規の国債発行額を’19年度より1000億円減額し、32兆5600億円程度とすることが閣議決定された。

 政府が国債発行や支出を抑制し、消費や投資を増やさない。ならば、いかにしてデフレギャップ(総需要の不足)を埋めるのか。民間の支出に依存したいというならば、「消費に対する罰金」であり、個人消費や設備投資、建設投資を減らすことが明らかな消費税は、減税もしくは廃止しなければならない。ところが、現実の安倍政権は消費税率を’14年、’19年と、2度も引き上げた。安倍政権は、デフレギャップを埋める気などないのだ。

 安倍政権が国債発行を抑制し、消費税増税を強行したのは、’13年6月に「プライマリーバランス(基礎的財政収支、以下PB)」の黒字化目標を「骨太の方針」で閣議決定したためだ。PB黒字化を目指す以上、政府支出(特に国債発行)は増やせない。国民から容赦なく所得を奪い取る消費税も、増税しなければならない。

 つまりは、’13年6月の時点で、安倍政権は「デフレ脱却」という国民が望む政策を放棄したのである。もっとも、さすがに2012年総選挙で「デフレ脱却」をうたって政権を民主党から奪還した以上、デフレ対策を全く打たないわけにもいかない。というわけで、
「日銀がインフレ目標を定め、マネタリーベース(以下、MB)を拡大する量的緩和をコミットすれば、期待インフレ率が上がり、実質金利が下がり、デフレ脱却できる」

 と、財政と無関係にデフレ脱却を可能とした「いわゆるリフレ派政策」が採用された。もっとも、MB拡大とは「我々が借りられない、使えない」日銀当座預金残高を増やす政策だ。日銀がどれだけ多額の国債を買い入れ、日銀当座預金を発行したところで、財やサービスが買われるわけではないため、我々の所得は1円も増えない。もちろん、インフレ率にも影響しない。

 実際、’13年に元財務官の黒田東彦氏が日銀総裁に就任して以降、日本銀行は’19年末までに380兆円超(!)ものMBを拡大した。ところが、デフレ脱却を果たせない。当たり前である。我々が使えない日銀当座預金をいくら増やしたところで、財やサービスが買われるわけではない。

 日銀当座預金を借り入れ、財やサービスを購入することが可能なのは、日本政府だけだ。日本政府は「国債発行」で日銀当座預金を借り入れ、消費や投資として支出できる。投資や消費という「需要」が増えれば、デフレギャップが埋まり、デフレ脱却が果たせる。

 ところが、PB目標を掲げる安倍政権は、国債発行(=日銀当座預金の借り入れ)や財政出動(=消費や投資の拡大)に背を向け、緊縮路線を継続した。反対側で日本銀行は懸命に国債を買い取り、MBを増やし続けたが、インフレ目標ははるか彼方。本来、日銀は「政府が財政出動に転じなければ、デフレ脱却できない」と表明するべきだが、何しろ総裁は元・財務官僚である。

 日本のデフレ脱却への道は閉ざされたのも同然だが、デフレ脱却の意志がない総理大臣が7年間も政権を握った以上、当然の結末と言える。

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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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