かねて父親の柳井氏は「世襲は絶対しない」と公言してきた。その手前、今回の抜擢に当たっても「社長の監督役に育てたい」と語り、表向き世襲を否定してみせた。しかし、父親がどう否定したところで世間の目には「北朝鮮の向こうを張った『ファストリ王国』の世襲シフト」としか映らない。執行役員に就いたこと自体、経営執行に責任を持つ立場だ。
何せ柳井氏、過去に後継者に指名した社長との軋轢はもちろん、外部から次期社長含みでスカウトした人物にも逃げられるなど“人材難”に見舞われてきた。それもこれも「ファストリは俺の会社」を自負する本人のアクの強さと口出し介入癖が最大の原因だが、その点、実の息子に帝王学を授けるとあれば、対応はおのずと変わってくる。
「本人は65歳で引退すると公言しており、タイムリミットが迫ってきた。誰かがワンポイントで社長に就いたところで、オーナーとしてにらみを利かせる御大の下ではギブアップするのが目に見えている。だからこそ『後継者として優秀な人材を探したら長男だった』との論法に訴えれば、世襲への風当りが和らぐと考えているフシさえあります」(関係者)
次善の策というべきか、商社マンだった次男の康治氏(35)も、9月に“家業”のユニクロへ入社した。御曹司2人の周辺が急に慌ただしくなったのは、単なる偶然ではないだろう。