「一番の問題は選手年俸です。昨年、株主が俎上に上げたのは、33億円の年俸総額でした。セでは巨人の45億円に次ぐ2位。資金投入なしのカープ女子旋風で人気が爆発した広島と比べて高過ぎると。そこでこのオフは22億円まで総年俸をそぎ落とした。これを考えれば、クライマックスシリーズ(CS)進出が狙える順位にいるうちはまだいいのですが、今年は予想外のことが起きている。セで総年俸が最も低い15億円の横浜DeNAが首位に立っているからです。結果として球団首脳の手腕が、あらためて問われているのです」(スポーツ紙デスク)
貧すれば鈍す。セの打撃トップ10にトラ戦士は不在。防御率トップ10も藤浪晋太郎だけ。これでは、いずれ観客動員に陰りが出るのは必至。
「昨季2位の阪神はCSで巨人を破り、日本シリーズに出場したものの、公式戦主催試合の観客動員数は約269万人。この10年では最低の入りでした。2007年に就任して株主へ頭を下げることには慣れている南信男球団社長も、これ以上減ったら言い逃れは難しい。株主総会を前に、とにかく株主の皆さん、ファンに夢を抱かせるようなチーム作りに知恵を絞れ、と現場首脳の尻を叩いているのです」(同)
とはいえ、主軸の鳥谷、ゴメス、マートンがそろって不調。昨年ブレイクした上本、大和も低迷。ここは一つ、大きなニンジンをぶら下げ巻き返しを図りたいところだが、「人件費はDeNAなみに」の指示もあり、そうもいかない。
そこで株主総会対策用に浮上したのが、米大リーグ、レンジャーズ藤川球児の呼び戻しだ。
藤川は'13年にカブス入りしたものの、同年6月に右肘の靭帯再建手術(通称トミー・ジョン手術)を受けた。今季は1年契約でレンジャーズ入りしていたが、オープン戦終盤に右脚の張りを訴えて故障者リスト入り。結局、5月18日にメジャーでプレーできる40人枠から除外された。
藤川にはマイナー行きの選択肢もあったが、自ら自由契約を選んだことで日本の球団との交渉が可能になっている。この動きに呼応するように、チームの守護神・呉昇桓が試合前の練習でグラウンドに姿を現さないなど、微妙な動きをしている。これだけでも“藤川復帰”の動きが見てとれる。
何てことはない。要は、株主総会を乗り切るためだけの方策。視線をそらせるための緊急補強のアドバルーンである。
「編成の最高責任者でもある南球団社長の保身パフォーマンス以外の何物でもない。阪神は'09年秋にメジャー帰りの城島を取り、課題だった生え抜き捕手の育成を遅れさせた。さらに西岡、福留を獲得して若手の成長の芽を摘んだ。岩貞祐太、横山雄哉らせっかくのドラ1投手が育ってきているのに、藤川を取って一軍投手枠が一つ減れば若手の出番も減る。話題を作ってメディアをにぎわせ、甲子園の入場者を増やせるとアピールすることに汲々としているのです」(阪神担当記者)
“にわかチーム改革”は野手陣にも及ぶ。起爆剤として掛布雅之DC(育成&打撃コーディネーター)を一軍に呼んで打撃コーチの役割を担ってもらうプランが浮上しているのだ。
阪神はこれまで和田監督に遠慮して掛布氏はチームに帯同させず、ファームでの若手指導に特化していた。その垣根を取り払い、ファンの前で堂々と選手指導をさせようというのだ。これは現首脳に反発を続けるマートン対策でもある。
「阪神の平均年俸は3558万円ですが、マートンの年俸は3年連続3割が評価され4億5000万円とケタ違いに高い。にもかかわらず、今季の打率は2割4分台に低迷し、本塁打はゼロ。そこでチーム低迷のスケープゴートにしてベンチに下げる。その分、掛布氏に若手を鍛えてもらい、戦力を底上げしようとしているのです」(阪神OBの野球解説者)
和田監督はこの案件に反発するかと思えたが、不思議なことに大歓迎。バックネット裏では、今秋8年ぶりに“政権奪還”を狙う岡田彰布元監督一派が手ぐすね引いており、和田監督は掛布氏と連合することで政権続投をもくろんでいるのだという。
昨年同様、リーグ優勝を逃してもCSに進出し、トラ旋風を起こせば信頼回復は可能。それ以上に怖いのが“最大関門”となる6月の株主総会。偽装と言われようが掛け声倒れと言われようが、これから1カ月、阪神のチーム改革が球界を大いに騒がせる。