「片頭痛は“脳の興奮”によって起こります。そのとき“頭痛ぐらいで休んでいられない”と鎮痛薬でごまかしたり、痛みを我慢してやり過ごしていると“脳の興奮”がどんどん蓄積され、ちょっとした刺激や些細な事でも頭の痛みを感じるようになり、深刻な状態を招きます。とくに高齢者の場合は動脈硬化で血管が広がりづらくなり、痛み自体を感じなくなりますが、脳の興奮状態は鎮まらずに慢性化し『脳過敏症候群』に移行する。こうなると脳の働きが混乱し、頭の中の雑音が鳴り響くような耳鳴りや、強烈なめまい、頭重、不眠といった深刻な症状が表れます」(同センター片岡医師)
この他に、物忘れが激しくなってイライラから攻撃的になったり、奇行を繰り返す場合もある。認知症、うつ、パニック障害と思われていた人が、実は「脳過敏症候群」だったというケースもあるという。
こうした深刻な事態を避けるためには、どのように対処したらいいだろうか。
「片頭痛には特効薬であるトリプタン製剤が効果的です。他にセレトニン作動薬、エルゴタミン製剤(商品名カフェルゴット、クリミアンなど)があります。いずれも脳の血管の拡張や三叉神経から放出される炎症物質を抑え込み、脳の興奮を鎮めます。頭痛が起こり始めたら、なるべく早く使用することが大切で、痛みをがまんしてはいけません。既往症によっては薬を使えない人もいるので、医者の診察を受けてください。将来の脳過敏症候群の予防にもつながります」(前出・関東病院脳神経科担当医)
慢性的な頭痛に悩まされている人は「こんなに辛い思いは、他人にはわかってもらえない」と、悲観的になりがちだ。しかし、北里大学・坂井文彦教授の全国調査(1997年)では、15歳以上の8.4%、約840万人が片頭痛に悩まされているといい、3割以上が何らかの慢性頭痛を抱えていると計算している。
ある医療関係者によると片頭痛を起こしやすい人に共通する性格があるようだ。
「頭が良くて仕事などの能力も高く、潔癖で完全主義者。また、几帳面で仕事も丁寧こなし、さらに勝気で野心が強く、プライドが高いタイプが多いとされています。一方で、頑固で融通が利かず、怒りっぽい性格が多いとされています」(前出・健康ライター)
頭痛に悩んでいた有名人も、世の東西を問わず多い。音楽家のハイドン、チャイコフスキーやモーツァルトなどだ。モーツァルトなどは、死亡時の激しい頭痛の記録から、死因は「慢性硬膜下血腫」という説もある。日本人では石川啄木や樋口一葉なども頭痛に悩まされ、しばし詩を詠むことができなかったそうだ。
いずれにせよ、将来、深刻な症状に悩みたくない人は、片頭痛を放置しないこと。我慢は決して美徳ではない。