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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 英国EU離脱に学ぶこと

 6月23日に行われたイギリスのEU離脱をめぐる国民投票は、離脱派が僅差で勝利した。
 事態を予測していなかった金融市場は大混乱に陥り、日本でも為替は一時1ドル=99円台を記録し、日経平均株価は終値で前日比1286円も暴落した。一部の報道では、「リーマン・ショック並みの経済危機が訪れるのでは」という説まで飛び出しているが、私はさほど大事にはならないとみている。

 まず言われているのが、イギリスに進出している日本企業への影響だ。イギリスには大手自動車メーカーなど1000社以上が進出している。彼らは、無関税でEUに輸出できるので、イギリスに立地を求めたのだが、EU離脱でそのメリットが消滅する。EUは自動車に10%の関税を課しているからだ。ただ、今後イギリスとEUが離脱交渉をしていく中で、自由貿易協定が結ばれれば、現状と変わらない可能性も十分ある。
 もう一つ、為替の問題は、実際の為替レートのこの1カ月間の変化を見てみると、円に対してユーロやポンドは暴落しているが、ドルに対しては変わっていない。つまり、ユーロ安やポンド安が起きているのではなく、円高が起きているのだ。その原因は、今年に入って日銀が追加の量的金融緩和策を打ち出せていないからだ。

 しかし、私はイギリスのEU離脱に伴う金融混乱が、日銀に追加の金融緩和を断行させる絶好の口実を与えたと考えている。おそらく近々、日銀は大規模金融緩和に踏み切るだろう。何しろ、円高、国債のマイナス金利、そして前年比▲0.3%となった4月の消費者物価指数と追加金融緩和の条件が、三拍子揃っているからだ。
 日銀が金融緩和に踏み切れば、為替は円安に向かい、株価も回復するだろう。もちろん、世界経済全体では、少々のマイナスの影響はあるかもしれないが、リーマン・ショックのときのように、全世界に損失が広がる話ではないのだから、私は、日本経済への影響は限定的だと思う。

 むしろ、日本が今回のイギリスのEU離脱から学ぶべき教訓は、移民がもたらす国民への影響だ。
 今回の離脱の大きな原因になったのは、旧東欧諸国から流入する移民が、イギリス人の雇用を奪っているという不満だった。移民排斥が離脱の大きな原動力になったのだ。米国の共和党大統領候補になったトランプ氏も、移民排斥を強く訴えている。それが強く支持されればされるほど、移民の増加は国民の不満を高めるのだ。
 ところが、今の日本はむしろ国を開きつつある。厚生労働省の外国人雇用状況調査によると、昨年の外国人労働者数は前年比15.3%増え、91万人と過去最高を記録している。安倍総理も、移民の受け入れに関して、積極的な発言をしている。
 しかし、移民の密度が高まってくると、徐々に国民が不満をつのらせ、やがて極端な国粋主義を台頭させてしまう。そのことを、今回のイギリスのEU離脱は明らかにしたのではないだろうか。

 幸い日本は移民の受け入れに関して、まだフリーハンドを握っている。だから、少なくとも当分の間は、移民に門戸を開かないような政策が必要なのではないか。

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