日本相撲協会は3月29日、東京・両国国技館で理事会を開き、大相撲界の反逆児、貴乃花親方(45)に春場所での無断欠勤や、暴行事件を引き起こした弟子の貴公俊(たかよしとし)の監督責任などで、委員から最下位のヒラ年寄に2階級降格の処分を下した。求心力も落ち、貴乃花一門解体の危機も囁かれる。果たして、貴乃花親方は復活できるか。
思わず「お見事」と声をかけたくなるような全面降伏だった。これまで自らが所属する相撲協会と鋭く対峙し、内閣府に告発までして徹底抗戦を続けてきた貴乃花親方。落としどころがまるで見えず、周囲も困惑するばかりだったが、貴乃花親方の撤退は早かった。
潮目がガラリと変わったのは春場所8日目。十両に昇進したばかりの愛弟子、貴公俊が引き越した支度部屋での「付け人殴打事件」がきっかけだった。
「貴乃花親方にすれば、まさか、という思いだったでしょう。暴力はいけない、と主張して日馬富士を引退に追い込みながら、自分の弟子がその暴力を、それも大勢の力士や関係者らが見ている前で振るったのですから。こちらも引退もので、このままいつまでも自分が突っ張っていたら、間違いなくそうなる。どうしたら愛弟子を救えるか。もし救えるならどんな屈辱にも耐える。その一点だけで、“全面撤退”つまり降伏に踏み切ったんだと思います。さすがは弟子第一主義の貴乃花親方ならではの決断、と言えますね」(担当記者)
ただ、これまでの態度があまりにも頑なで反抗的だったため、その反動、反発も大きかった。騒動の最中、遠くから見守るだけだった親方たちが一斉に不信や批判の声を上げたのだ。それが頂点に達したのは、出席を求める要請書を突き付けられ、全親方が出席した3月28日の年寄総会だった。
まるで犯罪者のように会場の真ん中に座らされ、ほかの親方たちから集中砲火を浴びた貴乃花親方。
中でも舌鋒鋭かったのは、8年前に後ろ足で砂をかけるようなかたちで貴乃花一門の親方たちが離脱した二所ノ関一門だった。恨みを晴らすのはこの時とばかり、一門代表の高田川親方(元関脇安芸乃島)は次のように明かした。
「本来なら、契約解除の処罰に当たることを、6個も、7個もしている。一門内には『契約解除すべき』という方もいらっしゃる」
ここでいう契約とは、親方たちが相撲協会と交わしている人材育成の委託契約のことだ。これを解除されると弟子の育成ができなくなり、解雇と同じ状況になる。要するに、「もう大相撲界から出ていってくれ」ということだ。こうした声に対し、貴乃花親方はひたすら頭を下げて謝罪一辺倒。
「貴乃花親方は『すみませんでした』、『私が悪かった』と繰り返し謝ったが、決して自分が間違っていたとは言わず、一代年寄のプライドのようなものを感じた。行動を釈明する踏み込んだ発言もなく、あれでは本当に謝っていたのか分からない」
非公開で年寄総会が行われた中、そうバッサリ切り捨てる親方もおり、現在、大相撲界では1人しかいない一代年寄を剥奪すべき、との声も上がったという。
いずれにしても、四面楚歌、孤立無援の状態だったのは確かだ。翌29日の臨時理事会は、こうした親方たちの声を受けるかたちで開かれ、下された処分は前述した委員から一番下、冷や飯食いのヒラ年寄への降格だった。
その前日、役員待遇から理事選に落選した親方の慣例で委員に降格されており、2日間で3階級、3カ月間で5階級も急降下したことになる。こんなに降格した親方は、もちろん過去に1人もいない。給料も理事時代の144万8000円から80万8000円に下がった。64万円もの減俸だ。
このように反乱の代償は決して小さくなかった。
ただし救いは、親方たちの一部が強く求めた「契約解除」にならなかったこと。どうしてこのクビ同然の処分だけは回避されたのか。
「まだ世間の貴乃花人気は絶大で、理事たちも、それを無視できなかったということですよ。もし解雇すれば、世間は、『やりすぎだ』と猛反発するでしょうし、貴乃花親方も、『そこまでやられる根拠がない』と主張して裁判に打って出ることでしょう。そうなると、春場所も連日超満員だった相撲人気にも大きく影響します。八角理事長の恩情、絶妙の落としどころと言えます」(協会関係者)
貴乃花親方は現役時代の名声のおかげでなんとかクビの皮一枚、繋がったと言えるが、貴乃花一門内の求心力低下は否めない。騒動以前は鉄の結束を誇ったが、今や分裂がウワサされ、解体も時間の問題だ。
新しく発表された職務分担では審判部に配属された。部長はつい先日まで自分の右腕となって支えてくれた同じ一門の新理事、阿武松親方(元関脇益荒雄)。きっといろいろな思いが交錯しているはずだ。
「仕事場も観客の視線が注がれる土俵下。一兵卒としてゼロからやり直すと宣言している以上、手抜きはできませんからね。息の抜けない毎日になると思います」(前出・担当記者)
4月1日から春巡業がスタートする。貴乃花親方は審判部の一員として参加する予定だったが、急遽、取り止めになった。混迷は続いているのだ。日本列島は花の季節を迎える中、貴乃花親方にしばらく春は巡ってこない。