A:歯科の分野では以前から、よく噛んで食べると血糖値が上がりにくいことがわかっていました。特に日本人は炭水化物食品が好きですから、いわゆる丼物をかき込むように早食いすると、血糖値は一気に急上昇します。
一方、よく噛むことは食後の血糖値上昇を改善します。よく噛まないと、糖尿病の発症を抑える栄養素の不足にもつながります。また、食事の時間が長いと食欲を抑えるホルモン「GLP-1」などの分泌が増えることなどが報告されています。
最新の情報としては、食事の際に噛む回数と糖尿病になるリスクに関連があることが報告されました。京都大学大学院医学研究科の家森正志・助教(口腔外科学)のグループが行った研究によって明らかになったものです。
同助教のグループは、滋賀県長浜市の住民6827人(40〜74歳。男性2283人、女性4544人)を調査。噛む回数によって分けた四つのグループのうち、噛む回数がもっとも多いグループでは、もっとも少ないグループに比べて、糖尿病リスクがほぼ半減していたと報告しています。
●糖尿病は歯周病とも関係
特に男性では、食事の際の噛む回数が増えるごとに糖尿病になるリスクが減っていき、噛む回数がもっとも多いグループでは糖尿病リスクが47%低下していました。食べる速度も、男性では長くなるごとに糖尿病リスクが減っていき、「速い」に対する「ゆっくり」で62%低下していました。
一方、女性は、噛む回数がもっとも多いグループで糖尿病リスクが44%低下。しかし、糖尿病になった人自体少ないため、統計学的に意義のある差が認められなかったそうです。また、食べる速度についても、糖尿病リスクとの関連は認められなかったとか。
そもそも、糖尿病と歯周病は深い関係にあります。糖尿病の人は歯周病になりやすく、血糖値が高くなると歯周病が悪化する傾向があります。また、歯周病を治療すると、血糖値が安定してくることもあります。
このことからも、食事の際、よく噛んでゆっくり食べることは大事です。
問題は、どうやって早食いの癖を直すかでしょう。それには、一口必ず最低でも10回は噛むこと、飲み込んで口の中が空になってから次を口に入れるなどを習慣にするようお勧めします。ぜひ今日から実行してください。
渡辺秀司氏(とつかグリーン歯科医院院長、漢方歯科医学研究所所長)
独自の歯周病治療で名高い。神奈川歯科大学卒。同大学研修医を経て、横浜市でとつかグリーン歯科医院を開設する。歯学博士。歯科領域に漢方を取り入れ、天然素材を配合したうがい薬や歯磨き剤を開発。