一つは、参院選対策だ。もし景気拡大に失敗すれば、選挙の勝利は覚束ない。だから、何としてでも7月までに景気を引き上げる必要があるのだ。
もうひとつの理由は、消費税だ。消費税引き上げ法には景気条項がついていて、デフレのままでは、消費税率の引き上げはできない。景気判断は、4月〜6月のGDP統計を用いて行うから、消費税を引き上げるためにも、7月以前に景気を戻す必要があるのだ。
景気対策の中身は、相変わらずの公共事業の拡大と企業への補助金拡大だが、税制改革で、いかにも自民党らしい対策が盛り込まれた。孫への教育資金の贈与を非課税にするというのだ。詳しい内容は、税制大綱の中で決まるが、非課税枠は1000万円以上になるとみられる。
経済効果は確実にあるだろう。祖父の世代で塩漬けになった貯蓄が、孫に渡れば消費に変わるからだ。しかし、この施策は平等だろうか。いくら非課税と言っても、1000万円もの教育資金を孫に渡せるのは相当な富裕層だけだ。庶民の高齢者は自分の老後だけで手一杯だからだ。そうなると、富裕層の孫だけが、潤沢な教育資金を元に質の高い教育を受けられることになる。これでは、格差が再生産されてしまうことになる。
しかし、自民党政権は、それでよいと考えているのだろう。実は今回は技術的には間に合わなかったので採り入れられなかったが、自民党が来年の実施を考えている子ども関連の税制改革がある。年少扶養控除の復活だ。もちろん単純に復活させるのではない。児童手当の削減とセットだ。
現状の児童手当は、民主党政権の子ども手当を減額したもので、かつて自民党政権だった時代の児童手当よりも額が大きい。それを元々の金額に戻して、扶養控除を復活させる、つまり民主党の子ども政策を完全否定するというのだ。
「控除から手当てへ」というのが民主党政権のスローガンだった。子どもの育ちを社会で平等に支援するためには、扶養控除ではなく一律の手当の支給でなければならない。なぜなら、扶養控除の減税効果は、税率の高い高額所得者ほど大きいからだ。だから、自民党が子育て支援を「手当てから控除へ」戻すことは、高所得層の子育てをより強く支援するということになるのだ。
この考え方には、一理あるかもしれない。資本主義社会では、能力の高さは稼いだ金額で測られる。金持ちは能力が高いのだから、その能力を受け継いでいる子弟に教育投資を集中させたほうが、社会としては望ましいという見方もできないことはないのだ。
しかし、大金持ちのボンボンが、手に負えないほどバカだということも、我々がよく目のあたりにする現実だ。人生のスタートラインでは、同じ条件で競争をスタートさせるというのが公平で、社会正義に照らして正しいのではないだろうか。金持ちの子弟の足を引っ張る必要はないが、政府が特別に支援するほどのことは、ないのではないか。