「名選手、必ずしも名監督にあらず」−−。野球界には、そんな格言もある。メジャーリーグの名選手は引退後も困らないだけのビッグマネーを手にする。だから、苦労の多いマイナーリーグで監督、コーチの勉強をやろうと思わない。メジャーリーグの監督に元無名選手が多いのもそのためだという。
「日本のプロ野球は人気商売ですから、スター選手に監督業を託すケースが圧倒的に多い。監督の人選は、現役時代の論功行賞で決まると言ってもいいでしょう」(プロ野球解説者)
しかし、スター選手は戦術を練ったり、チームマネジメントをした経験がないため、失敗してしまう…。日本でも「名監督にあらず」の格言が定着したのはそのせいだ。しかし、近年では将来の監督候補に二軍監督を経験させてから、後にチームを託すというケースが増えてきた。
埼玉西武ライオンズは来期の監督に潮崎哲也二軍監督(45)を昇格させる予定だ。渡辺久信元監督(49=現シニアディレクター)も監督就任前は長く二軍監督を務めていた。他チームでも東京ヤクルトの小川淳司現監督、来季監督就任が予定されている真中満打撃コーチ、福岡ソフトバンクホークスの秋山幸二監督もその道程を歩んでいる。二軍監督を一軍指揮官の登竜門とする日本流の指導者育成法が定着しつつあるようだ。だが、西武で予想外のトラブルが起きていた。
「潮崎二軍監督は将来の一軍指揮官の含みも持って、抜擢されました。本人も、いずれは一軍を指揮しなければならない旨を理解していたはずです」(球界関係者)
しかし、潮崎二軍監督は、来季のことを記者団に質問されると、渋い表情を返すだけ。正式発表前ということもあるが、気が進まないような雰囲気を醸し出している。
「潮崎二軍監督は、一軍監督の地位に強い抵抗感を持っています」(前出関係者)
その理由は簡単だ。その理由は、いまのご時世が如実に表現している。
「一軍監督は成績次第でクビにされます。二軍監督は誠実に取り組んでいれば、チームの成績が悪くても、クビにされることはありません。潮崎二軍監督はクビにされること、つまり、無職の無収入になるのを強く恐れているんです」(同)
潮崎二軍監督は11月で46歳になる。3年以上の長期契約を交わしたとしても、チームがまた今季のような最下位争いを演じれば、雇用期間の約束は反故にされる。年俸は安いが、安定した二軍監督の方がいいというわけだ。西武が潮崎二軍監督の昇格をまだ発表できていない事情は、この辺りにありそうだ。
「渡辺元監督は退任後、シニアディレクターとして球団に残りました。年齢がさほど変わらない潮崎二軍監督にすれば、一軍監督退任後に球団に残れるかどうか、確実な保障がなければ承諾できないようです」(同)
広島カープも、野村謙二郎監督のあとは、46歳の緒方孝市野手総合ベンチコーチの昇格が規制路線とされている。中日の谷繁兼任監督、ヤクルトの真中次期監督など、40代の一軍指揮官も増えてきたが、就任時に退任後の保障ウンヌンの話は出なかった。
西武ファンにすれば、「失敗した後のことは二の次。冒険してやろう」なる気概も見せてもらいたいところだ。