報道によれば、賭博の胴元は試合にハンディを付けるという。たとえば、有名強豪校と初出場の公立高校が試合でぶつかるとする。戦力、経験値等から考えれば、有名強豪校の勝利を予想する声の方が圧倒的だろう。そして実際に、「3対0」で強豪校が勝ったとする。胴元は試合前に「強豪校0点、公立校4点からスタート」といったふうに“ハンディ”をつけておく。そうすると、賭博上では「3対4」で公立校が勝ったことになる。このハンディの的確な数値、もしくは「強豪校の投手が故障を抱えている」というような内部情報をキャッチするため、マスコミを含めた野球関係者に胴元が接近してくるのだ。
つまり、取材で知り得た情報を第三者に伝言してはならない。注意しなければ、疑惑に巻き込まれてしまうのである…。在阪球団スカウトもこう言う。
「こっちは仕事ですから、毎日、甲子園に行きます。お目当ての選手がいれば、地方予選の1回戦だって観に行きます。そうすると、高校野球ファンと顔なじみになることだってある。知っている顔がいれば、挨拶くらいはしますが、『あの学校はどう?』なんて話し掛けてきたら、その人は怪しいですよね。一見、一般会社員みたいな人ばかりなので…。一昔前、高校野球ファンが無名校に眠っていた逸材をスカウトに教えた例もあったらしいですが、今はそんな時代ではない」
もちろん、その話し掛けてきた会社員ふうの男性が『悪い人』だと裏を取ったわけではない。だが、それくらい注意しておかなければいけないのである。
そういった“情報交換の危険性”は、現場指導者も感じている。
「この人、本当に関係者かな?」
失礼ながら、そんな疑惑の目を向けてしまうのは「プロ野球球団のスカウトに対して」だと言う。
どの球団にも“名物スカウト”というのがいた。選手OBのスカウトもいる。そういった有名スカウトマンは『顔』と『名前』が一致するが、大多数は実直な勤め人だ。また一般論として、彼らの仕事は秘密活動である。従って、偽造名刺でプロ野球スカウトを自称されれば、学校指導者側は騙されてしまう。
「スカウトも世代交代していますからね。名物スカウトと呼ばれた人は引退しているし、球団職員からスカウト部に転属された職員だったら、まずは顔と名前が一致しないでしょうね」(前出・在阪球団スカウト)
指導者は本当にこの人はスカウトマンなのか、疑ってしまうという。名刺に書かれた球団事務所に電話すればいいのだが、ホンモノのスカウトマンだったら、失礼である。有望球児の情報を何処まで教えていいのか、警戒してしまうそうだ。
「偽装スカウトが有望球児と直接話をし、故障歴、好不調などを把握しているとすれば、野球賭博のハンディを大きく動かします。近年ではプロ入り後の活躍を見据え、マネジメント契約を結ぶために内々に情報を集めているとの噂もある」(前出・同)
高野連とプロ野球側がスカウトの身分証明に関する取り決めをすれば解決しそうな気もするが、今のところ、そういった動きはない。(スポーツライター・飯山満)