中でも、精神的にズタズタになっているのが主将で正捕手で4番の阿部慎之助。「現在の巨人は慎之助のチーム」と言ってはばからなかった原辰徳監督が、WBC開幕戦直前に痛めた右膝を考慮してか、阿部を4番から外そうとしていることで両者の信頼関係にヒビが入ったのだという。
「そりゃたまらんでしょう。伏線はWBCの準決勝・プエルトリコ戦の重盗失敗です。山本監督も『阿部が軸』と言っておきながら、2点ビハインドの8回1死一、二塁、打者阿部の場面でダブルスチールもOKのサインを出した。阿部のバットを信頼していれば、こんなギャンブルはありえない。巨人選手たちも『あんなサインを出されては阿部さんのプライドはボロボロでしょう』と同情しきりですよ」
巨人担当記者がこう嘆けば、巨人OBのプロ野球解説者も今回の余波をこのように危惧する。
「かつて巨人では金田(正一)が先発していたヤクルト戦(1964年)で、2点ビハインドで迎えた7回1死三塁、打者広岡の場面で三塁走者の長嶋が本盗し、タッチアウトになった事件が伝説として残っている。怒り心頭の広岡さんはヘルメットとバットをベンチ前に叩きつけ、そのまま帰宅してしまった。川上監督がサインではなく口頭でミスターにだけホームスチールを指示していたことがわかったからです。広岡さんは二軍行きの処分を受け、兼任コーチの肩書もはく奪され、そのシーズンの一軍復帰はなかった。しかも、オフにはトレード騒ぎにまで発展、広岡さんと川上さんの確執はいまなお続いている。阿部は大人の性格だから直接的な不満は表さなかったが、そのときと状況は酷似しており、原監督との関係が微妙なのです」
なぜ侍ジャパンの山本監督ではなく、原監督への怒りなのか。
「そもそも、原監督と阿部は東海大閥と中央大閥。水面下では反目し合っているのです。また、今回の侍ジャパンの作戦面は巨人の橋上秀樹作戦コーチが担当しており、例の“重盗”も立案した。準決勝のためにサンフランシスコ入りした侍ジャパンのシニアアドバイザー・原監督も、ここ一番に配備していた“重盗”という究極の一手は知らされていたはず。原監督、橋上コーチ、阿部主将の三者間に十分な意思の疎通があれば、なんてことない話だが、打者阿部をスルーして敢行され、しかも、失敗に終わったことでチーム内に不信感、不協和音がこだましている」(同)
侍ジャパンの巨人勢はこぞってWBCで不振を極めた。エース内海の防御率が15.43なら、抑えエースの山口は同10.38。斬り込み隊長を託された長野は鳥谷、井端にお株を奪われ、2次ラウンドからついにスタメン落ち。巨人本隊復帰後も傷心の阿部に引きずられる形で揃って本調子を取り戻せないでいる。
「昭和の本盗事件」では川上監督に軍配が上がったが、「平成の重盗事件」はどのように進展するのか。いずれにしても深刻だ。