ニューヒーロー高安は、このように声を弾ませていた。
今年に入って稀勢の里(30)が横綱昇進、奇跡の逆転優勝。それに続き、夏場所で3場所連続2ケタの11勝を挙げ、技能賞を受賞した弟弟子の高安(27)が大関に昇進した。師匠の田子ノ浦親方(元幕内隆の鶴)をはじめ、部屋関係者も笑いが止まらないといったところだろう。
稀勢の里も、高安も、6年前に急逝した先代師匠(元横綱隆の里)が手取り足取りしながら一から育て上げた力士だ。
「もし生きていたら、『どうだ、オレの育て方は間違っていなかっただろう』と胸を張り、どんなに喜んだことか」(関係者)
また、高安の父親である栄二さんも、息子の大関昇進が決定的になった時、
「甘えん坊だった私たちの子供を、あたたかく、また厳しく育て、心の折れない強い人間にしてくれた先代の親方とおかみさんにお礼を言いたい」
と真っ先に感謝していた。
5月31日に行われた大関昇進伝達式会場には100人以上の報道陣が詰めかけ、その前で新大関は「大関の名に恥じぬよう、正々堂々、精進します」と口上を述べた。しかし、その場には、先代師匠の遺影はもちろんのこと、先代おかみの影も形もなかった。
そればかりではない。
「こんなことは、今回ばかりではありません。稀勢の里の横綱昇進の時も、先代おかみは姿を見せませんでした」
部屋関係者は声を潜めて話したが、いったい何があったのか。
実は先代おかみと田子ノ浦親方は、喧嘩別れ状態なのだ。部屋の経営をめぐって両者の仲が決定的になったのは、先代が亡くなって2年後のことだった。
「はっきり言って先代おかみは、実績もなく、機転も利かない田子ノ浦が気に食わなかったんですよ。そのため、田子ノ浦がケツをまくり、稀勢の里らとともに部屋を飛び出したんです。先代おかみからすると、稀勢の里も高安も、言わば裏切り者。素直に出世を喜ぶ心境じゃないんでしょうね」(担当記者)
稀勢の里と高安、2人が先代おかみの守る先代師匠の位牌に昇進を報告する日は訪れるのだろうか。複雑な“大人の事情”は解かれることなく絡まりあったままだ。