ダウンタウンのブルジュドバイでは住宅価格が22%以上下落し、ブルジュドバイタワーでは50%以上下がったといわれている。下落が顕著なのは、投資物件が集中したハイエンドなものほど激しい。投資家は損切りをしても早く額を確定したいため売り急いでいる。
数多(あまた)あった巨大プロジェクトも中止や延期を余儀なくされている。高さ1000メートルを越すビルバージャルドバイの建設やジュメイラガーデンシティーの建設スケジュールも延期が検討中である。
従業員の解雇も激しく、ドバイ不動産を牽引してきたナキール社も全従業員の約15%にあたる500人が突然解雇されたのをはじめ、多くの企業で解雇が日常化している。
これに対してドバイ政府はドバイ国民の解雇を禁ずる法令を施行した。したがって解雇されたのは外国人のみである。ホワイトカラーがこういう状態だから、現場労働に従事していた外国人労働者の解雇はなおさら激しい。そもそもドバイ政府は外国人労働者の存在を、経済のショックアブソーバーだと明言していた。非常に明快で割り切っているのがドバイの政策の特徴である。
バブル崩壊の一方で、今年もドバイショッピングフェスティバルが盛況のうちに閉幕した。賞品もレクサスや金や現金など総額約20億円。相変わらず派手な演出が施された。
ドバイに投資していた欧米の投資銀行や投資機関は一斉に資金を引き上げたが、底値で買うのが投資の鉄則である。基本的なドバイの強みについて投資コンサルタントの市川恵氏は、「ドバイ政府はあたかも一つの企業のように決定が迅速で徹底している。人口の平均年齢が32歳と非常に若いこと、アジアとヨーロッパを結ぶハブとしての立地の良さ」をあげている。
ドバイ興隆の礎を築いた故シェイクラシッドはまず港湾の整備を手始めに、ハブとしての機能をはかるために数々のインフラを整備した。輸入金額の約4割をイランなど他国に再輸出した。エミレーツ航空もハブ戦略に特化しており、ドバイ空港は世界220国と直接結ばれ、年間利用者は3437万人。3500万人の成田空港を追い越す勢いだが、その利用客の7割がトランジット客である。
ドバイのバブル崩壊後の経済情勢は、短期的には、アブダビの存在が大きい。同じUAEのなかの隣の首長国だが、豊富な石油資源を背景に巨大な資金力を有している。UAEは7つの首長国が集まってできた国で、必ずしも一枚岩とはいえないが、UAEのGDPの3割を占めるドバイの存在を無視するわけにはいかない。現にエミレーツ航空がアブダビに身売りする情報が流れ、ドバイ政府が否定したばかりである。
今後、アブダビの支援次第で、V字回復は充分期待できる。さらにインド経済の回復も重要な要因である。
古代のダウ船による季節風貿易の時代から、ドバイとインドの繋(つな)がりは深い。現在でも輸出入ではトップの相手国であると共に、外国人労働者の7割がインド人である。
「ドバイがインドで最も美しい都市」といわれる所以である。そのインドの経済見通しが楽観的なのも心強い。インドの自動車販売台数は底を打ち、株価も持ち直し始めた。財閥関係者は、「インド経済は半年で持ち直す」と語っている。インド経済が回復すれば、徐々にドバイに好影響を与える。
さらに前述の市川氏は「ドバイの不動産で大きく高値をつけたり大きく下落した物件は一部の象徴的な物件で元々、割高な価格で取引されていたものです。一般的な不動産価格はバブル当時から比較的安く取引され、中心部の100平方メートルのマンションでも3500万円程度が中心。現在の下落幅も大きくはない」と楽観的だ。
ドバイ経済が華々しくV字回復するか、文字どおり砂上の楼閣と化すか当面、目が離せない。