「とてもうれしい。15年前、わずか62キロの小さな少年が、ここまで来るとは誰も思わなかったでしょう」
白鵬はこう喜んだものの、決して満足の場所とは言えなかったのではないか。
先場所まで10場所連続してストレートで勝ち越しを決めていたことでもわかるように、白鵬の前半の安定した強さには定評があった。ところが今場所はモタつく相撲が目立ち、6日目には高安に叩きこまれ、金星を献上してしまった。
「このところ稽古量が落ちていますからね。前半に負けたことよりも、その取組後に漏らした一言に驚きました。あの自信家が20分も風呂場にこもった後、弱いから負けたとポツリと言ったんです。もしかすると、自分でも気力、体力の限界が近づいていることを感じているのかもしれません」
そう言えば、去年まではぶっちぎりの優勝が多かったのに、今年優勝した5度全てが千秋楽までもつれている。一つ間違えば、優勝回数ゼロで終わった可能性もあったのだ。
問題はこれから。白鵬が日本の父と慕う大鵬は、29歳を過ぎて優勝したのは1回だけ。しかも最後の32回優勝の2場所後には引退している。つまり、この29歳という年齢は力士の曲がり角。果たして白鵬はあと何回、優勝を上積みできるか。白鵬に近い関係者は次のように予想する。
「35回はいくでしょう。でも、もう心身ともに目いっぱいのところにきていますからね。ケガをしないことが白鵬の強みですが、どこかやったら…」
これまで数々の記録を塗り替えてきた“白鵬伝説”もいよいよ最終章に入ろうとしている。