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友成那智 メジャーリーグ侍「007」 ポストシーズンを見据え温存される「ダルビッシュ」

 レンジャースのダルビッシュ有は1年2カ月に及ぶブランクを経て5月28日に復帰後、3試合に先発したあと「肩と首の張り」を理由にDL入りした。トミージョン手術との関連が気になるところだが、どのような状態にあるのだろう?

 DL入りすることになったのは、復帰第3戦となる6月9日のアストロズ戦で登板中に右肩の違和感を覚えたからだ。ただ、チームドクター(キース・マイスター博士)による診察やMRI検査では肩の関節や筋肉に何の異常も見られなかったため、本来なら先発予定を一度回避するだけで済むレベルの故障なのだが、球団は大事を取って故障者リストに入れ、十分休ませることにした。
 球団がそのような判断をした最大の要因はダルビッシュが5月下旬に復帰後、3度の登板でトミージョン手術明けの投手とは思えないハイレベルなピッチングを見せたからだ。そのため、レギュラーシーズンではなるべく消耗を避け、ポストシーズンでフルに活用したいと思ったのだ。

 トミージョン手術を受けた投手は13〜15カ月のブランクを経て復帰することが多い。だが、復帰当初はまだ手術のダメージが残っているため、球速が遅くなるだけでなく、制球も不安定な状態が続く。
 日本人投手の例で見ると30代になってから同手術を受けた松坂大輔や藤川球児は復帰後、球威も制球も落ちて60〜70%程度のピッチングしかできなかった。同手術の成功例である田澤純一も復帰後2、3カ月は70〜80%程度の回復で球威に欠け、マイナーの試合でよく打たれていた。
 このようにトミージョン手術明けの投手は、球威不足と制球難に見舞われ、復帰後しばらくは本来のピッチングができていない。順調に回復した投手でも以前の80%レベルに戻るのに18カ月を要するものだ。

 それを考えると、ダルビッシュが復帰後に見せたピッチングは驚異的と言っていい。
 ダルは復帰第1戦から速球が走り、最速は157キロ、速球系の平均時速は151キロを記録した。これは一昨年より2キロ以上速い数値だ。見せ球に使う速球の威力があるため、伝家の宝刀スライダーの威力もさらにアップしている。
 1年以上実戦から遠ざかっていたためスタミナにやや問題があり、1戦目、2戦目はゲーム中盤に制球が甘くなって失点する場面があったが、それでも防御率は2.87だ。通常はどんな大投手でも復帰後2、3カ月は4、5点台の防御率が当たり前なのだから、驚きを禁じ得ない防御率である。

 球団がダルビッシュを過保護と思えるほどたっぷり休ませているのは、トミージョン手術明けの投手は復帰後、ヒジ以外の部分に故障が起きやすくなるからだ。
 同手術を受けた投手はリハビリ期間中、ピッチングに関連する他の筋肉を徹底的に鍛える。そのため体のどこかに無理がいき、復帰後、思わぬ部位を痛めることがよくある。レンジャーズの首脳はそれを危惧し大事を取っているのだ。

 辣腕で知られるダニエルズGMは、すでにポストシーズンを見据えている。
 レ軍は6月29日現在、51勝27敗でア・リーグ西地区の首位を独走しており、2位アストロズに10ゲーム差をつけている。これだけ貯金があると7月以降、勝率5割でいけば地区優勝は確実だ。そのため、頭の中はワールドシリーズを勝ち進むことで一杯なのだ。

 今季のレ軍は強力打線がフルに機能しているだけでなく、弱体と見られていた先発投手陣が期待以上の働きを見せ、メジャー30球団の中で最も高い勝率をマークしている。しかし、先発陣はB級の投手が優秀なブロケイル投手コーチに乗せられて、実力以上の結果を出している感がある。ポストシーズンの大舞台で、ある程度活躍を期待できるのは左腕のエース、コール・ハメルズただ1人だ。ポストシーズンで勝ち上がるにはもう1人、防御率2点台の投手同士の投げ合いで勝てる右投手が1人必要になる。

 レ軍の先発陣を見ると右投手で今季一番活躍しているのは、広島カープで生まれ変わったコルビー・ルイス(6勝1敗、防御率3.21)だが、6月半ばに肩の広背筋を痛めDL入り。シーズン終盤まで復帰できない。
 広背筋を痛めると復帰後すぐに100%のピッチングは出来ないので、ルイスはポストシーズンでは大きな戦力にはならないだろう。そうなると、頼れる右腕はダルしかいない。

 ポストシーズンゲームが行われる10月は、ダルビッシュにとってトミージョン手術から19カ月目に当たり、その球威はさらに増している可能性が高い。そこにもっていくには、レギュラーシーズンでダルを消耗させたくない。レ軍はオールスター休み明けの7月中旬、ダルを復帰させる予定だが、レギュラーシーズン中は故障リスクを避けることを最優先にした起用に徹すると思われる。日本のファンはそのことを念頭にテレビ観戦すべきだ。

ともなり・なち 今はなきPLAYBOY日本版のスポーツ担当として、日本で活躍する元大リーガーらと交流。アメリカ野球に造詣が深く、現在は大リーグ関連の記事を各媒体に寄稿。日本人大リーガーにも愛読者が多い「メジャーリーグ選手名鑑2016」(廣済堂出版)が発売中。

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