確かに今取り沙汰されているのは、2010年に開催された南アフリカW杯について。招致に絡み、ブラッター会長は元副会長と共謀し1000万ドル(約12億円)を受け取った疑いがあるとされるが、そこから透けて見えるのが、FIFA内部の利権争いだ。
ブラッター会長追い落としの急先鋒になっているのが、FIFAの改革を求めるUEFA(欧州サッカー連盟)のミシェル・プラティニ会長(フランス)。UEFAのFIFA離脱や、W杯ボイコットの可能性を示唆するなどして揺さぶりをかけている。
「問題の根底にあるのが、アジア・アフリカ問題です。ご存じのようにW杯開催国を決めるFIFA理事や会長は各国の協会の票がものをいう。そうなると断然数の上で多いのが、アフリカやアジアの国々です。そこでブラッター氏はアジア、アフリカの新興国に資金を使い、支持を集めてきた。原資は米国や欧州から集めたW杯の放映権料です。このお金はもっと米国や欧州に使うべきというのが、プラティニ氏らの考え。そこで贈収賄事件の責任を取る形でブラッター会長を退陣させ、主導権を欧州に呼び戻したいのです」(サッカーライター)
思惑通り、ブラッター会長が辞任を表明したことで、にわかに注目されることになったのが次期会長選。本来であれば、ブラッター氏を辞任に追い込み、現役時代に「将軍」の異名を誇ったプラティニ氏が最有力視されるが、すんなりと進まないところにFIFAが抱える“闇”がある。今回の「贈収賄事件」が2010年の前に戻るか、以降に発展するかで、捜査当局とFIFA首脳の間でせめぎ合いが続いているからだ。
現時点では、米国の捜査当局は「1991年以降の贈収賄だけでも計180億円の疑惑がある」とし、過去にさかのぼる方向性を示唆している。先にも書いたが、'91年は日本が2002年W杯招致活動を始めた時期と重なる。狙いを定めているのは、熾烈を極めた揚げ句、予想外の共催で落着した日本と韓国の招致争いという見立てである。
「トヨタカップの実績に加えて当時のジョアン・アヴェランジェFIFA会長(ブラジル)の後押しもあり、当選確実とみられたのにもかかわらず、日本より招致活動が遅れていた韓国が、鄭夢準韓国サッカー協会会長を先頭に、政財界を挙げて招致活動に乗り出し、これをひっくり返した。アヴェランジェ氏の後のFIFA会長を狙っていた当時のUEFA会長、レナート・ヨハンソン氏(スウェーデン)に接近し、欧州を味方に付けたのです。結果、2002年W杯は日韓の一騎打ちとなり、アヴェランジェ氏の側近だったブラッター事務局長(当時)が韓国との共催にする案を持ち出し、韓国を懐柔するとともに日本にも恩を売り、FIFA会長に就いた経緯がある。このドンデン返しには、双方で巨額の金が動いたとされています。日本は各国協会や国にドーンと資金援助したのに対し、韓国は21人いたFIFA理事個人にベンツ1台分相当の資金が流れたと噂になったものです。米国司法当局は、このときの資金の流れを掌握している。アヴェランジェ政権の金庫番がブラッター氏だったわけですから、これは過去の話として封印したいのです」(ベテランサッカー記者)