殴られたら殴り返す。闘いの世界に住む人間の本能と言っていい。でも、ここまでもつれると、もう常識の域を超えている。
貴乃花親方がたった2票という歴史的な敗北を喫した理事選から半月あまりが経過した。これで一つの決着がついたはずだった。
しかし、むしろ本番はここから。これまで固く口を閉ざしていた貴乃花親方が、ついにテレビのインタビューや週刊誌の直撃に応えるかたちで重い口を開き、相撲協会、ひいては八角理事長(元横綱北勝海)の対応を鋭く批判したのだ。
その詳細は、すでにあちこちで報道されているので省略する。しかし、貴乃花親方は暴行事件が起こった直後、八角理事長をはじめ、尾車事業部長(元大関琴風)や春日野広報部長(元関脇栃乃和歌)ら、いわゆる協会中枢の執行部から「内々で済む話じゃないか」と圧力をかけられたことを明かし、「協会が発表することと、私が思っている真実、報告してきたこと、回答してきたこととはあまりにも違いすぎる」と激しく反論。つまり、相撲協会がこれまでやってきたことをすべて否定して、これからも間違いを正し続けることを高らかに宣言したのだ。
これでは協会サイドも、受けて立たざるを得ない。ただ、繰り出したパンチは真正面からではなく、貴乃花親方の虚をついたところから放たれた。
まず、インタビュー番組を放送し、13.6%という高い視聴率を取って話題となったテレビ朝日に向けて矢を放ったのだ。
「放送するには、肖像権の問題もあるため、まず相撲協会に申請し、許可を得なければいけないことになっています。しかし、テレビ朝日はその手続きをしていませんでした。もっとも、テレビ朝日側にすれば、申請しても許可されない可能性が高いし、番組そのものを潰される恐れもある。だから、あえて手続きをしなかったのでしょう。テレビ局がよく使う“無視作戦”ですよ。当然、相撲協会側はこのルール違反にカンカン。猛烈に抗議した上、報復として、以後のテレビ朝日の取材をシャットアウトしました。今も相撲協会とテレビ朝日は喧嘩状態です」(大相撲担当記者)
貴乃花親方にすれば、「なんだい、文句をつける筋道が違うよ」といったところだろう。しかし、さらに2発目のパンチも、意外なところから放たれた。
2月16日、理事、役員以外の親方たちで構成する緊急の年寄会が東京・両国国技館内で開かれた。そこで貴乃花親方に対する批判が続出したのだ。
「どうしてこんなルール違反をしたのか。あのインタビューはおかしい」
というのは、まだおとなしい方。中には、
「貴乃花親方は(3月までは)協会の役員。その役員が相撲協会と交わした誓約書に違反するというのはどういうことか。キチンと説明すべき」
と激しく非難する声や、
「理事会は何をしている。モタモタせずにこの責任をとって解雇処分にすべきだ」
と厳罰を求めるベテランの親方まで現れたのだ。
年寄会の中には10人もの貴乃花一門の親方たちもいたが、誰からも、どこからも、擁護する声は上がらなかったという。まさに四面楚歌状態だ。
「もっとも、それは当たり前の話です。この年寄会の会長は錦戸親方(元関脇水戸泉)。もっと突っ込んで言えば、八角理事長が総帥を務める高砂一門の所属ですから。何らかの意図があってこの年寄会が開かれ、意見が集約された、と見るのが自然です。協会首脳、その代表の八角理事長らは、このところの貴乃花親方の言動に強い不快感を抱いているのは確かですからね」(協会関係者)
「仕組まれた」とまでは言わないが、「このまま放置してはおけない」と協会首脳が強く思っていたことは間違いない。この年寄会の後、錦戸会長は八角理事長と面談を行った。
「相撲協会と貴乃花親方の言い分が大きく違う。どうなっているのか、キチンと究明して(多くの親方たちが言うように)ルール違反があるのなら処分すべき」
と、申し入れている。
これに対して春日野広報部長は「(貴乃花親方の)何らかの説明を必要としていることは確かだ」と同意する姿勢を見せ、八角理事長も「(3月9日の)理事会に(議題として)上げることを検討している」と話したという。理事選の時、徹底した貴乃花包囲網が敷かれたが、ここでもまた、“貴乃花潰し”の分厚い壁が築かれたことになる。
貴乃花親方にすれば、2度も惨敗するワケにはいかない。果たして、どうやってこの窮地を脱するか。方法はもう一つしかない。
「貴乃花親方はテレビのインタビューで、『心では闘います』と答え、いわゆる貴乃花文書の中でも、協会が間違いを認めなければ、『公開の法廷で真実が明らかにされることを強く主張する』と言っています。おそらく、相撲協会や八角理事長を東京地裁に訴えるんじゃないでしょうか」(後援会関係者)
いよいよ、貴乃花親方の反撃に注目が集まっている。