田澤は昨季後半、炎上が続いた後、「腕の疲労」を理由にシャットダウン(登板なし)してしまった。
そのため今季、復調できるか注目されていたが、セットアッパーとしてフルに機能している。今シーズン目立つのは奪三振率(9イニング当たりの奪三振数)の高さだ。奪三振率10.91という数字はメジャーでもトップレベルで、奪三振力の高さがウリの上原浩治をしのいでいる。
好調の要因は、キャンプでカール・ウィリス投手コーチからアドバイスを受け、速球と変化球の軌道を改善したことが大きい。ウィリス投手コーチが田澤に求めたのは、打者の近くに来てからホップするフォーシーム(直球)と、打者の近くに来てから鋭く変化するフォーク、スライダーである。昨季後半は、体が開き気味になることや球離れが早いことなどで、フォーシームは定規で引いたようなストレートボールになり、フォークやスライダーは早い時点で軌道が読める鈍い変化球になっていた。
それを改めるため、田澤は肩の開きが早くならないことと、球持ちをよくすることを意識して投球フォームの改良を行った。
ウィリス投手コーチはメディアにも「昨シーズン後半の田澤の乱調はあいつが悪いんじゃない。酷使され過ぎて腕の振りが鈍くなったのが原因だったんだ」とコメントし、田澤への気遣いを見せた。
この軌道の改善は、開幕からの好調につながった。
田澤の今季の投球内容を示す諸データの中で、大きな変化が見られるのは「ボール球スイング・パーセンテージ」だ。これはボールゾーンに外れる投球を打者がどれだけ振ったかを示す指標で、昨年田澤はこれが平均レベルの32.4%だった。しかし今季はトップレベルの42.1%にアップしている。
投球が打者の近くに来てから鋭く動くため、打者はバットが出てしまうのだ。
今後の課題は、なんといってもシーズン終盤に息切れしないことだ。終盤に息切れするかしないかは、これからのピッチャー人生を左右することになる。なぜなら田澤は今季中にFA権を取得するため、レッドソックスに残留する場合でも、他球団に移る場合でも、成績が良ければ複数年契約をゲットできるからだ。
「最近は、セットアッパーでいい働きができる投手は、3年契約をゲットできるようになった。'14年の序盤に不調でレッドソックスをあっさり首になったトニー・シップがアストロズで復活してオフに1800万ドル(20億円、3年契約)の契約をゲットした。もし、田澤が今シーズン、例年以上の成績を出せば、複数年契約になるのはほぼ間違いない。昨シーズンのような展開になれば1年契約になるだろうけどね」(地方紙のレッドソックス番記者)
田澤の例年並みの成績というのは防御率3.00、WHIP1.20レベルの数字である。今年は5月18日現在、防御率1.72、WHIP0.83という素晴らしい数字をマークしている。
一番望ましいのは、このレベルの数字をずっとキープし、防御率1.99以内、WHIP0.90以内をマークすることだ。それなら3年2500万ドル(27億円)レベルの契約をゲットできるだろう。
後半戦、多少息切れして防御率が2点台前半、WHIPが1.00〜1.10前後の場合は2年1300万ドル(±200万ドル)になる。防御率が2点台後半でWHIPが1.11〜1.20の場合は2年1000万ドル(±200万ドル)くらいか。
現在メジャーには日本人クローザーがいないので、田澤にはクローザーとして迎えてくれる球団と契約してもらいたいが、その可能性はあるのだろうか?
好成績を出してもクローザーの座を確約する球団はないだろうが、クローザーの第一候補として獲得に乗り出す球団はあるだろう。
田澤の最大のリスク要因は、一発を食いやすいことだ。それを考えれば田澤はマリナーズ、ジャイアンツ、パドレスなど本拠地球場が広いチームに向いている。この3球団は今オフ、クローザーの獲得に動くと思われるので狙い目と言っていい。
ただ本人は、トミージョン手術で投げられなかった間もしっかり面倒をみてくれたレッドソックスに恩義を感じており、残留を優先する可能性が高い。その場合でも、レ軍は好条件を出してくるだろう。トップセットアッパーの上原浩治は41歳なので、今季限りでチームを離れる可能性が高い。クローザーのキンブレルが故障したときの代役も確保しておく必要があるので、2点台前半の防御率を出せば3年契約をオファーしてくるかもしれない。
ともなり・なち 今はなきPLAYBOY日本版のスポーツ担当として、日本で活躍する元大リーガーらと交流。アメリカ野球に造詣が深く、現在は大リーグ関連の記事を各媒体に寄稿。日本人大リーガーにも愛読者が多い「メジャーリーグ選手名鑑2016」(廣済堂出版)が発売中。