9月1日から開催される『第28回 U-18ベースボールワールドカップ(カナダ)』に向け、18人の高校球児が招集された。その練習試合初戦で清宮が高校記録の通算108号本塁打を放った。スカウトたちは木製バットから放たれた高い放物線に、怪物の素養を再確認したが、他のドラフト候補生たちを巡る球団間の陽動作戦はより本格化してきた。
「阪神のスカウトチームだけは姿を現しませんでした。これも作戦なんでしょう。大学生相手とやるんですから、指名候補の力量を確認するにはうってつけなんですが…」(在京球団スカウト)
阪神は、複数体制でのカナダ入りを決めている。他球団を混乱させるため、視察を見送ったのだろうか。
「進学かプロ入りか、清宮の態度が不透明なので、中村に乗り換えた球団も出始めました」(ベテラン記者)
去る8月19日、中村奨成の地元、広島カープがスカウト会議を開いた。関係者によれば、同会議で高校生のリストを30人以下まで絞り込めたとのことだが、1位候補は清宮と中村の2人。会議後、苑田聡彦スカウト部長が記者団に囲まれた。中村を称賛していたが、意味深な物言いもしている。
「捕手でも日本一になれるけど、日本一の三塁手にもなれる」
キーワードは二つ。捕手と三塁手。5月24日の同会議で、苑田部長は「進学してしまうリスク」も認めた上で清宮を1位候補の1人とし、三塁手として育成するプランも口にしていた。広島は2、3年、捕手を指名しないと決めていたのだ。
「昨秋、ドラフト4位で指名した坂倉将吾に期待しているからです。肩の強さ、フットワークは二重丸。二軍打撃戦績でも、打率が現在2位。この坂倉を育てていく方向で、広島は無意味に戦力を重複させ、余剰人員を作るのを嫌っています」(球界関係者)
中村は「スタメン内野手」で試合に出た経験もある。指名した暁には、内野手にコンバートさせたいようだ。
三塁手を探すのであれば、履正社の安田がいる。清宮が108号を放った日、安田は2HRを放っており、こちらも通算65本(8月26日時点)。守備センスでは「清宮よりも上」というのが各スカウトの共通評価だ。
「できれば右打者で、というのが広島の考えで、中村は右です。中村のブレイク前の話をすると、クリーンアップを張れるスラッガー、スター性、人気面で清宮が捨てきれず、彼が三塁を守れるのかどうかが視察の目的になっていました」(同)
巨人・岡崎郁スカウト部長も「中村を獲るとしたら、1位でしかない」と話していた。元ヤンキーからの更正、「女手一つで育ててくれた母のためにも」の思い…。中村はスターの要素をすべて持っている。広島スカウト陣も検討中のようだが、内野コンバート案は、地元・広島出身ゆえに広島という球団の心証に影響を及ぼすかもしれない。
「U-18には清宮キラーで名を馳せた桜井周斗も招集されました。桜井は日大三高では二刀流でしたが、スカウトの評価は割れています。貴重な左腕なので投手として育てていくか、バッターに専念させるか…。大会では、野手としてのスタメン起用もありそう」(アマチュア球界要人)
一方の清宮だが、都大会決勝戦で敗れた翌日から練習を再開させていた。学童時代に所属した北砂リトルをアポなしで表敬訪問したのは本誌既報通り。まだおぼろげだが、進路に関する一案も浮かんだようだ。
「早稲田大学へは進学するものの、通信制の学部を選択するようですね。つまり、プロと学業の二刀流です」(関係者)
これにはラクビートップリーグ・ヤマハ発動機ジュビロの監督である父・克幸氏の人脈も影響していた。
「新記録となる108号を打った直後、五郎丸歩がお祝いのメッセージを出しています。五郎丸は克幸氏の早大監督時代の教え子でもあり、当時から清宮家に出入りしていました。幸太郎の方も、五郎丸の今回の帰国を機に海外へ挑戦した経緯に触れ、アスリートとして挑戦していく大切さを知ったようです」(同)
秀岳館の川端健斗、田浦文丸の両左腕も清宮らとともに“世界”と戦う。出し抜いての一本釣りがあるとすれば、「エースの風格アリ」と一目惚れしたスカウトの多い徳山壮麿(大阪桐蔭)だろう。増田珠(横浜高)は走攻守すべて揃っているが、外野手なので1位ではなく「上位指名」になりそうだ。
帰国後、清宮は進路に関する正式表明をする段取りとなっている。この表明で、ドラフト戦線はさらにエキサイトしてくるはずだ。